半年経って、何が変わるのか!
目が覚めると自室にいて、すっかり日が暮れていた。
おそらくゴーレム戦の後俺はこの部屋に運び込まれたのだろう。
そんなことより、俺の体についてどうしても触れなければならないことがある。
ゴーレム戦で負傷(まあ負傷どころではないのだが…)したはずの俺の左腕が治っている。
いや、治っているという表現は正しくない。なぜなら、
「『義手』だよな、これ……」
俺の左腕は義手になっていた。
それならなぜ、治ったと言ったのかというと、見た目が完全に普通の腕なのだ。
メカニックな光沢もなく、知らない人が見ると違和感を覚えることのないだろう腕。
「確かに長年連れ添ってきた腕じゃない感じはするが、不通に違和感なく動くからなあ……」
むしろ動きはかなりいい。俺は右利きだが、これからは両利きとしてやっていけるくらいに左腕はうまく動く。
「ここにきてファンタジーの謎技術かよ」
そんなことを思ってしまった。
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「てってれ~!毎度恒例のステータスチェックのお時間です。今回のゴーレムも俺が倒せる相手じゃなかったしね。今回は何が起きたんだろうね」
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名前:リョウガ・タナカ 17歳 人族
職業:なし 状態:正常
レベル:1 HP17000 MP88500
力4500 防御2200
敏捷1700 魔力157000
スキル 通常:恐怖無効 痛覚無効 剣技Lv2 魔力式闘技
ユニーク:言語理解 アイテムボックス 魔法適正
EXユニーク:健康体
装備:隷属の首輪 ???
称号:実験動物
加護:女神の加護
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おおっ!今回はツッコミどころがほとんどないぞ!!
突っ込みどころが一つでもあるのがおかしい気もするが……
ゴーレムを倒せた要因は『魔力式闘技』ってやつだろう。
『魔力式闘技』・・・MPを使用して肉体を強化する格闘方法。強化率は魔力値に依存する。女神からの憐みの産物。
ほうほう、これは何とも便利な……って待て待て、『女神からの』だって?まさか、
『女神の加護』・・・ねっ!いいことあったでしょ?
くたばってしまえ。
女神を殴る事が確定した瞬間である。
もう一つ気になるのはレベルだが、こっちは考えても解決法が一切思い浮かばないし、レベルは上がらずともステータスは伸びているので悲観する必要はないだろう。
そういえば、装備に何か追加されているが、あれは一体何なのだろう……
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ここに来てからかなりの時間がたった、約半年だろうか。
特に、ゴーレム戦の後は本当にいろいろされたと思う。
ある時は目をえぐられ、ある時は腹に穴が開き、またある時は片足を切り落とされる。
『恐怖無効』を獲得できていなければどの攻撃でも確実に精神がくるっていただろう攻撃をいくつも受けた。
そして毎度その傷が翌朝には直っていることに、無効になったはずの恐怖を覚える日々。
この半年で生き残りは3人まで減ってしまった。
残っているのは1129番から1131番まで。
つまりは、レナード、俺、エルフちゃんだ。
あいも変わらずエルフちゃんの目は死んでいて、結局一度も話をすることはなかった。
できる限り話し掛けてはいるんだけどね。
「しっかしついに三人になっちまったか……」
「まあ、あんだけいろいろやってたらな」
レナードは苦笑を浮かべながらそう答える。
ここまで半年生き延びられたとあって、だいぶんこいつも肝が据わってきたように感じられる。
もうそろそろ脱出も可能だろうしできればレナードと共に脱出したいのだが、レナードは俺と違って『 隷属』状態にある。
何かいい手はないだろうか……
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その日の戦闘実験のとき、レナードの相手として出された魔物は明らかにレナードの手におえるものではなかった。
強大な1対の翼をもつトカゲの様な魔物。
俗に言う『ワイバーン』だ。
数ヶ月前に俺が戦った時は尻尾の毒針を受けて右脇腹が軽く壊死してしまった。
俺なら既になんとでもできるような魔物なのだがレナードが対処するとなるとかなり厳しいのではないか?
先頭が始まると、レナードはうまくワイバーンの足元に潜り込んだ。
そしてそのまま足を切りつけるのだが明らかに力が足りない。鱗に阻まれほとんど刃が通っていない。
「レナード……」
無意識につぶやいた俺の声はかすかに震えていた。
レナードとワイバーンが対峙して、数十秒ほどたった。既にレナードは満身創痍で、体には大きな切り傷、片腕は壊死している。
突然、ジジイがワイバーンに向かってなにかの命令を下した。すると、ワイバーンの行動が停止した。
なんだかんだ言ってこいつらからしてもここまで生き残った俺達は貴重な存在なのだろう。
そう考えていると、やつはレナードにも命令を下した。
「1129番、こっちにこい」
『命令』されたレナードが爺のもとに歩み寄って立ち止まると、爺とその隣にいたおっさんが少しだけ会話を交わして、
ドシュッッ!
と、レナードの首を断ち切った。
「……な、なんで……?」
なんでレナードを殺したのか?そんな視線を爺に向けると、爺はこともなげに、
「『なんで?』とな?簡単だろう、今回の実験結果としては、お前と1131番がいれば十分だからじゃよ。それより、誰が発言を許可した?」
…………ああ、そうだよな、こいつらは俺達を『実験動物』として買ったんだよな。
だから、こいつらからするとレナードの命なんて全く無価値なものなんだよな。
けど、あいつは、レナードは、この世界に来て初めての俺の友達だったんだ!!
プツッ!と、俺の中で何かが切れる音がした。