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閑話 アリス、はじめてのおつかい?――後編――

 俺はあくまでアリスにお使いを頼んだだけのつもりだ。

 放魔石を買うだけ、本当にそれだけだ。


 勝手知ったる街で、俺の弟子でありアリスの友人でもあるヴィオラの店で買い物をするだけ。



「――――なのに何故そんな奇妙なことになるんでしょうねぇ……」


「いや、私に言われましても」



 そりゃそうだ。レナさんが詳細を知っているはずが無い。

 とはいえ、アリスのことは心配だ。



「レナさん。その騒動はどこであったのかわかりますか?」


「あっ、はい。何でも街の中央付近らしいですよ?」


「了解です」



 全く、世話が焼ける……。


 探し回るのもめんどくさいし、ここは素直にソフィアさんに頼るとしようか。

 そう考えたとき、ギルドのすぐ外にアリスの気配を感じた。……不審者に絡まれているんじゃないのか?


 と、一瞬思ったがよく良く考えれば、アリスなら不審者の撃退くらい余裕か……。寧ろアリスより強い人物が本気で暴れるなら、最悪この街は消滅しているおそれすらある。



「おーい、アリスー!」



 俺は、氷で覆われた男と話をしているアリスに声を掛けた。


 ……何をやってるのだろうか、あの娘は。




 ******




「じゃあおじさん達は、だふぁーさんから逃げてるの?」


「いや、だからダルダファだって……。」



 不審者の説明も虚しく、彼の言葉はアリスちゃんには通じません。

 どれだけ強くなっても、アリスちゃんはまだまだ子供。難しいことはわからないのです。



「おーい、アリスー!」



 しかし、そんな不審者とアリスちゃんに救いの手?が差し伸べられます。お兄ちゃんこと、リョーガの登場です。



「あん? 誰か来たのか?」



 氷漬けにされた不審者さんが、リョーガの声を聞き後ろを振り向きます。首だけ回す姿は何とも言えない笑いを誘います。



「で? あんたがうちのアリスに手を出した不審者さん? いったいどう落とし前つけてくれるのかねぇ?」



 リョーガの姿は正しく悪鬼羅刹。熟練の冒険者である不審者さんですら恐怖におののきます。



「いっ、いやそれは……」


「違うよ、お兄ちゃん! このおじさんは悪くないの。だふぁーさんが悪いんだよ!」


「だふぁー?」


「あ、ああ。ダルダファ商会だよ。あんたも聞いたことはあるだろう?」


「ダルダファ……」



 リョーガにとっては、とてつもなくタイムリーな内容です。



「なるほど、あっちで固まってるのもダルダファのやつか。じゃあ、ついでにレナさんに渡しておくか」


「なっ!? ダルダファだぞ! 何でそんな冷静でいられるんだよ!」



 そんなものは当然の話なのです。



「だって、さっき潰してきたし……」


「はぁぁぁぁ!?」




 ******




 アリスによる氷漬けの刑を解かれ、自由になった彼らの話を聞くと、ようやく事情を理解できた。

 彼、いや彼らはダルダファ商会に騙され、一文無しの状況で、どうにか借金を返すために、アリスがヴィオラから預かった荷物を奪おうとしたらしい。



「そもそも、ヴィオラから渡された荷物って何だったんだろうな」


「それは俺から説明しようか」


「あれ? バロンさん。なんでいるんですか?」


「俺がいたらいけねぇのかよ。その荷物を受け取りに来ただけだよ。あとついでにそいつらの処分についてもな」



 なるほど、実質的に被害は無かったとはいえ、一応は街中で人を襲った罪人だ。ギルドマスターとしても、色々あるのだろう。



「んで、この中身なんだが……別に大したものじゃねぇよ?」


「「は?」」



 彼ら二人の声が被る。自分が犯罪者になってでも手に入れようとしたもの。それが大したものではない、と一蹴されたのだから当然か。



「結局、中身はなんですか?」


「カメラってのがあっただろ?」



 カメラ。俺にとっては身近なものだが、この世界には存在していなかった。そのため、ヴィオラにカメラについて教えると、すぐに魔道具として一般化し販売を開始した。

 そのため、リベラの街では、カメラはありふれたものになっているのだ。



「んで、この間友人に貸してたんだがよ。娘の写真を取ったから現像してほしいと言われていてな」


「……まさか」


「そのまさかだよ。友人の娘の写真が入っている」



 あまりにもあんまりな結末に、不審者二人組を含む我々は、唖然としたのだった。




 ******



 これはあの後ヴィオラから聞いた話なのだが、彼ら二人はヴィオラの店で働くことになったそうだ。

 冒険者としての罰則は資格の剥奪。路頭に迷っていた所をヴィオラに拾われ、今ではヴィオラを姉御と呼んで慕っているそうだ。


 俺がヴィオラの師匠だと話したら大層驚いてとても面白かった。

 アリスとも和解して、この騒動は万々歳のハッピーエンドだろう。


 ヴィオラは少し迷惑そうにもしていたが、本気で嫌がっている様子では無かったし、問題なさそうだ。

 災難だったな、と思わなくもなかったが、よく良く考えればそもそもはヴィオラの怠慢が原因である。


 反省していたらいいな、でもきっと反省してないだろうな。


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