アリス、はじめてのおつかい?前編
耳をすませば、きっとあのBGMが聞こえてくるはずです!
「あ、放魔石がきれてる」
休日の昼下がり、リョーガが呟く。
「しまったなぁ。俺は手を離せないし、ユキは料理習いに行ってるし、ソフィアは修理中でリヴィもどこかに出かけてるのか……」
リョーガ達が魔物の大軍を退けてから、早くもひと月が経過した。
あれ以降街は平和で、むしろ以前より周囲の魔物は少ないように思える。
『では、アリスさんに買いに行って貰いましょうよ』
「……そうだな、アリスもお使いを経験すべきだな」
放魔石が売ってある『魔道具ヴィオラ』は、リョーガの弟子の少女、ヴィオラが経営する店で、二人は友人である。
それに、アリスはこの街では英雄兼アイドル的存在であ
り、恐らくアリスに危害を加える者はいないだろう。
もっとも、アリスを傷つけられるほどの猛者はいないだろうが。
「アリスー!ちょっと来てくれー」
トテトテトテ
「はいっ!どうしたの?」
「アリス君、君に頼みたいことがある」
「?」
リョーガの言葉に思い当たる節がなかったらしく、アリスは下唇に人差し指を当てて首をかしげる。
このしぐさにリョーガがときめいたのは内緒である。
「実は放魔石がなくなってな。ヴィオラの店まで買いに行ってほしいんだ。
数はとりあえず十個ほど。お金は後で渡すから、とりあえず払っておいてくれ」
「は~いっ!」
元気よく返事をするアリスに、リョーガは一抹の不安を覚える。
「アリス、一応言っておくが、アリスが一人で行くんだ
ぞ?」
「え?」
どうやら、アリスは『お使い』について知らないようだ。
もしかすると、この世界にはお使いという概念がないのかもしれない。
……それはないか。
「アリス、うちもかなりの大所帯になってるけど、最初に俺と会ったのはアリスだ。つまり、アリスはお姉さんだ。それなら、買い物くらい行けるよね?」
「……うん。アリス、がんばるよ」
リョウガは、いい子だ、と言いながらアリスの頭をなで
る。
すると、アリスは嬉しそうにほほ笑む。
これから、アリスのお使いが始まるのだ。
今日お使いするのは、ここ、リベラの街に住む六歳の女の子、アリスちゃん。
「いいか、アリス。ヴィオラの店に行って放魔石を十個買ってくるんだぞ」
「ヴィオラちゃんのお店で、ほうませきを十個……。
うん、大丈夫!
行ってくるね、お兄ちゃん!」
アリスちゃん、お兄ちゃん代わりのリョーガ君に親指を立てると、そのまま走り去ってしまいました。
これにはリョーガ君も思わず、
「不安だ……」
と、つぶやきます。
気にしても仕方ない、と自分に言い聞かせながらおうちに戻ります。
リベラの街は、領主ルノア・リベラ様の住むお屋敷を中心に、同心円状に広がった構造をしています。
周囲を防壁に囲まれたこの町は、辺境にありながらも、相当の防衛能力を誇っています。
そんな街の中で、アリスちゃんやリョーガ君達、冒険者パーティー『ファミリア』は現在、街の西のぽつんと置かれた馬車に住んでいます。
たかが馬車と侮るなかれ、この馬車は一家の大黒柱にし
て、魔道具・魔導具を司る亜神であるリョーガ君が全力で作った魔導具なのです。
外から見るとただの馬車ですが、内部は現在7LDK。立派な住居です。
『そんなに心配なら、ついていけばいいじゃないですか』
見かねたソフィアさんが、リョーガ君に言います。
(いや、それは違うじゃん!帰ってきたアリスに、おかえりって言ってあげたいじゃん!)
『……そうですか。私にはわかりかねますが、マスターがそう考えるならそうなのでしょう』
リョーガ君の持論に、ソフィアさんは呆れてしまったようです。
「お買い物!お買い物!」
街を歩くアリスちゃんは、楽しそうに鼻歌を歌っていま
す。
街の人々は、そんなアリスちゃんにお菓子を渡したり、お小遣いを渡したり。
すっかり街に馴染んでいるようです。
もちろん、アリスちゃんを誘拐しようだなんて人はいません。
『白銀魔姫』の名は伊達ではないのです。
さて、街の人と交流しながら歩くこと二十分ほど。
どうやら、『魔道具ヴィオラ』に到着したようです。
「こんにちはー」
アリスちゃんが挨拶をすると、店員と思われる白い服を着た男性がアリスちゃんの元に来ます。
「これはこれは、アリス様。本日はどのような品をお求めで?」
「あのね、お兄ちゃんが、ほうませきを十個買ってきて、って言ってたの!」
「……ほうませき?ああ、放魔石ですか。
しかしあれは非売品だと店長が……」
「えー、ヴィオラちゃんを呼ぶの!
アリスがヴィオラちゃんと話をするの!」
「しかし、店長は……」
店員さんも、一筋縄では行きません。
簡単には折れてくれないようです。
そのとき、店員さんの後ろからもの凄い速さで、女の子が走ってきました。
「アリスちゃん!久しぶり!元気にしてた?
師匠はどうしたの?」
「今日はお兄ちゃんのお使いなの!アリスはお姉さんだから、お使いができるの!」
「そうなの?アリスちゃんは偉いねー」
ヴィオラちゃんが褒めてくれたことが嬉しく、アリスちゃんはえっへんと胸を逸らします。
逸らすほどの胸もありませんが。
「店長、なぜここに…」
一方、話の流れについていけない店員さんは、戸惑っているようです。
「放魔石が非売品と言ったのは、リョーガさん。私の師匠に渡すためなんです。黙っていてごめんなさいね」
「いえ、それならいいのですが…」
店員さんは立ち去り、アリスちゃんはヴィオラちゃんから袋詰めされた放魔石を受け取り、アイテムボックスに収納しました。
なにはともあれ、アリスちゃんのお使いは無事に終了したようです。
「あ、そうだ。アリスちゃん、これから帰るなら、ついでにバロンさんにいくつか魔導具を届けてくれない?」
どうやら、アリスちゃんのお使いはまだ終わらないようです。
最近、相互何たらかんたらが話題になっていますね。
もちろん、私は関係していない(というか、存在すら知らなかった)のですが、あれをやっている人の気持ちが理解できませんね。
初めてポイントが入ったとき、初めて評価を頂けたとき、初めてコメントしてくれたとき、いずれも私にとっては感動の瞬間でした。
それを味わえないのは、とても勿体無いことではないでしょうか。
と、まあ、いろいろ言いたい事はありますが、つまりは評価やコメントが貰えると嬉しいってことです(笑)




