リベラの街防衛戦!――西門・黒の剣姫――
西門を防衛するのは、ゴーズ・グルツェ率いるリベラの衛兵団である。
ゴーズは領主ルノアの護衛兵長を務めるほどの猛者であり、冒険者ギルドマスターのバロンとも旧知の仲だ。
それゆえ、今回の騒動では西門の防衛隊長に任命された。
しかし、ゴーズはこの采配を気に入ってはいない。
「なんで俺が……」
普段から衛兵長として威厳のある態度をしてはいるが、本来の彼は人に命令をするのが得意ではない。
前線に立って敵を斬る事を最も得意とするのだ。
しかし、彼は指揮官として無能である、という訳では無い。
戦闘において超一流の彼は、指揮官としても超一流なのである。
だから、こんな状況にも簡単に対処することができるのだ。
「隊長!十歳くらいの女の子が前線で戦う許可をよこせ、と言い張っているのですが、どうすればよろしいですか!?」
「知らねぇよ!?そいつ連れて来いよ!!」
どうやら、対処はできなかったようだ。
******
西門の前で、ユキは困惑していた。
敬愛する父から西を守るように仰せつかったはいいものの、集まった騎士達がユキを前線に出さまいとするのだ。
「だーかーらー!私はここの防衛に参加するよう父に言われたのです!」
「そうは言っても……。お嬢ちゃんみたいな小さい子を前線に出すなんて…………」
騎士は言外に、前線に出たら確実に死ぬと言っている。
「もういいです。責任者を、責任者を出して下さい!」
ここでユキは説得方法を変えた。
もっと上の権力者を呼ぶよう言った。
リョーガに教わったことである。
ただし、地球なら確実にクレーマーと呼ばれるであろうが。
「いや、責任者って…………。
まあいいか。なぁ、隊長と相談して来てくれないか?」
騎士は、別の騎士に権力者である隊長を呼ぶように命じた。
クレーマーに負けたのだ。
十分後。
一人の大柄な騎士がやってきた。
もちろんゴーズである。
「で、そのお嬢ちゃんってのはどいつだ?」
ゴーズが騎士に確認をとる。
「はい、あの子です」
「ああ、あの子……ってあれはもしかして…………」
ゴーズはユキを見ると言葉を止め、ユキの方に向かう。
「始めまして、だよな。お嬢ちゃんは『ファミリア』のユキか?」
「そうですけど……。あなたはどなたですか?」
自分が呼んだ責任者だとは気がついていないようだ。
「俺はゴーズ・グルツェってもんだ。バロンの友人と言えばわかるか?」
「なるほど、バロンさんの」
「ああ。それで、ユキちゃんは何のようだ?前線に出たいと言っていたようだが……」
ユキはそれに間髪入れず答える。
「父からここを防衛するように言われまして。
それならいっそここの魔物を殲滅しようと思ったのです」
ゴーズの顔が引き攣る。
なにせ、ここに迫っている魔物はいずれも、Cランクを超える。
それを殲滅する、と言っているのだ、仕方ないだろう。
「あのな、お嬢ちゃんの父親がどんな奴かは知らないが、殲滅なんて無理だよ。お嬢ちゃんの父親は馬鹿なのか?」
言い切った途端、首筋に冷たいものが当たる。
それは刃だった。
この少女は自分が気付く間もなく自分を殺せるのだ。
それを悟り、ゴーズは血の気が引く。
まるで、アリスという少女に出会った時のように。
「お父さんを馬鹿にするのなら、斬りますよ?」
「オーケー落ち着こう。お嬢ちゃんの父親はリョーガだろ?」
「知ってるんですか?」
バロンが話した可能性もあるが。
「ああ、リョーガとアリスちゃんにはあったことがあるんだよ」
「へぇ、まあ、それはいいです。早く私を前線に案内してください」
「……まあいいか」
ゴーズは説得を諦めた。
******
数え切れないほどの魔物とそれに対峙する二人。
ゴーズと、そしてユキである。
「良いんですか、ゴーズさんっ。あなたは指揮官何でしょうっ!」
「構わねぇ構わねぇ!あいつらは自分で何とかするさっ!」
喋りながらも、二人とも手に持った武器を振るう。
「きりがありませんね……。仕方ありません。解放『節制』」
ユキの周りに暴風が吹き荒れる。
それはすぐに収束したが、魔物達に恐怖を与えるには十分だった。
「『抜けば玉散る氷の刃、村雨』」
次いで、冷気が迸る。
抜き身の刀は水に濡れている。
「おいおい、何だよその剣は……」
「なんでも、ナンソウサトミハッケンデン?由来の刀らしいですよ。お父さんにプレゼントされたんです」
「はっ!確かにこりゃバロンのいうことは間違っちゃいねぇようだな!!」
一体彼はバロンから何を聞いたのか。
ちなみに、村雨は南総里見八犬伝に登場する刀だが、リョーガはアリスが『忍耐』を解放した様子をモデルにしている。
教会を凍りつかせたアレである。
ユキは否定しているようだが、リョーガの頭の悪さは言うまでもない。
「……一刀【枝垂柳】!!」
ユキが天に向かって村雨を斬りあげる。
「何をやってんだ、お嬢ちゃん?」
「…………………………」
「お嬢ちゃん?」
ユキは言葉を発さず、ただ目を閉じている。
そして、
「慘っっっ!!」
無数の刃が、あたかも柳の枝を降ろすかのように、降ってくる。
それは一つ一つが必殺。
刃に当たった場所が元々そうであったかのように両断されている。
「どうですか?あとどのくらい残ってますか?」
「あ、ああ。そうだなぁ、もう百も居ないんじゃないかな……」
ゴーズもこれには正気を失いかけた。
「それでは、さっさと終わらせましょうか」
こうして、極めて呆気なく西門での戦いは終わってしまった。




