指名依頼!――森の支配者――
次回で指名依頼編は終わる……よね?
さて、一日中森を歩き回ったのだが、結局原因を見つけることは出来なかった。
「じゃあ、今日はここで野宿するか!」
「あいあいさー!」
「分かりました」
ということで、アイテムボックスからテントを取り出す。
このテントは普通のテントだが、これも今度弄ってみようかな?
テントの周りには魔物避けの結界を張り、俺達はテントの中で川の字になって寝る。
その際、二人に俺が真ん中になるように言われるので右にアリス、左にユキ、そして真ん中に俺という並びで寝ている。
二人も甘えたい盛りなのだろう。俺も美少女に挟まれて寝るというご褒美を貰えるのでウィン・ウィンの関係になっているのだ。
翌朝、朝食はアイテムボックスから取り出すだけの簡単料理を即座に準備して、アリストユキを起こす。
「アリスー、ユキー、起きなさい!」
「んにゅ〜……」
「ふあぁ〜い」
「さっさと朝ごはん食べて今日も探索に行くよ」
二人とも寝ぼけた声ながら返事をしてくれたので大丈夫だろう。
ただ、二人がすっきり起きられる方法も要検討、と心に留めておいた。
ひたすらに森を歩く。
二人もしんどいだろうに、音を上げる事もなくついてきてくれている。
「なぁ、二人ともしんどくないのか?」
「お兄ちゃんとピクニックだから!」
「そうですね、とっても楽しいです!」
……嬉しい事言ってくれるねぇ。目頭が熱くなるよ。
歩くことおよそ三十分。
見えてきたのは今にも崩壊しそうな建物だった。
石造りの元はかなり綺麗だったと想像できる教会のような建物なのだが……
「なんだあれ?教会か?」
「おっきいの〜!」
「凄いですね……」
でかいのだ。高さ二十メートルはありそうだ。
この世界の建物はほとんど一階建てである。たまに宿なんかは二階建ての建物があったりするし、貴族の家も二階建てを超えるものがあるが、あまりないそうだ。
そんな世界に二十メートルの教会。
「怪しすぎる……」
「おっ邪魔しまーす!」
「あっ、こら!アリス! 」
俺が一人思考にふけっていると、アリスが教会へと駆け出していった。
アリスを追って教会の中に入ると、そこには巨大な木があった。
「ようこそ、小さき者よ。我が祭壇に何用か」
木を観察していると、突然その木がしゃべり始めた。
高さおよそ十メートルの大木だが、よく見ると顔のようなものがある。
「トレントの上位種……」
「如何にも。我はエルダートレントである。何故ここへと参った」
「ああ、この森の調査だよ。森が大量の魔物で溢れかえっているって話でね。何か知らない?」
「それは我が力なり。矮小なる人共を滅するための力なり」
「……へぇ、じゃあ俺達の敵ってことだよな?」
「左様。速やかに死するがよい」
そう言ってエルダートレントは自身の無数の枝を鞭のようにこちらに打ち付ける。
「アリスは魔法で、ユキは刀で枝を切って!」
「うんっ!」「はいっ!」
ユキが刀を振るうと、エルダートレントの枝が落ちる。
「硬いですっ!」
その言葉は事実なのだろう、普段のユキより動きが悪く感じる。
それなら、
「ユキっ!天羽々斬を使えっ!!」
ユキは即座に反応し、アイテムボックスから一本の刀を取り出す。
『天羽々斬』・・・俺が愛用しているデュランダルの刀バージョンで、これもまたとにかく良く切れるアダマンタイト製の刀である。
「はっ!」
ユキはさらに剣速を上げエルダートレントの枝を切り続ける。
「馬鹿なっ!?」
驚愕の声を上げるエルダートレント。
しかし、こちらの攻撃はまだ終わらない。
「【アイスジャベリン】」
アリスの周囲に氷で出来た投げ槍が浮かぶ。
「やっちゃえっ!」
そして、それが全てエルダートレントへと向かう。
ダンダンダンと音を立てエルダートレントの枝へと突き刺さる。
「許さんぞ!人共がっ!!
『我が願いたるは風神なり。その力の元に全てを断て!【大鎌鼬】』」
実はこの世界にも魔法の詠唱というものはある。
詠唱は大規模な魔法や強力な魔法を使用するさいに、その使用を補助する役目を持っている。
そのため、無詠唱なんかもできる人はそこそこ居るのだ。
もっとも、冒険者ではBランク相当の実力者でもないと無詠唱なんてできる人はそこまでいないのだが。
とどのつまり、明らかにAランクを超える力を持つこいつが詠唱を必要とする魔法を撃てることは予想できていたのだ。
そういうことである。
「【ディスペル】」
俺は魔法を相殺するための魔法を放つ。
すると、エルダートレントの大鎌鼬はディスペルにぶつかり消える。
アリスは魔法結界で弾き、ユキに至っては天羽々斬で大鎌鼬を切っている。
最初から心配などしていなかったが、やはり一安心である。
しかし、逆に心配になってくるやつが一名(一本?)。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?我が魔法があああああ!!!」
まるで狂ったように叫び続けるエルダートレント。
Aランクオーバーであろうこいつも、俺達チート三人衆にとっては敵ではない。
こいつからするとたまったもんじゃないだろうけどね。
「何故何故何故なぜな……ぜ…」
叫び続けていたエルダートレントも既に体力が尽きようとしているようで、声が弱々しい。
「我は生きねばならぬのだ……あの方のためにも…」
エルダートレントの様子がおかしい。
どんどん体が腐っていく。
まるで、森の魔物達のように。
そして、体が半分程グチャグチャになったところで
腐敗が止まった。
「アアァァァ……」
理性のない虚ろな目を向け、エルダートレントが俺へと枝を振るう。
それは今までよりもはるかに速くなっていた。
「っつ、どうなってんだ?」
明らかに威圧感が今までとは違う。
「油断するなよ!こいつは強いぞ!!」
VSエルダートレント
二回戦開始




