ランクアップ試験!――襲い来るヤツら(瞬殺)――
馬車での道のりもついに一週間が経過した。
一週間シンくんに嫌味を言い続けられたせいで俺のSAN値はピンチになっていた。
ある昼下がり、ジョンさんから声がかかった。
「お前達!前方約三十の盗賊だ!!」
馬車の旅には彼等は付き物だろう。
むしろここでテンプレに出会えて感動したまである。
俺達は馬車から駆け下りた。
「盗賊ですか?相手の方がかなり多いようですが、大丈夫なのですか?」
と、俺は尋ねた。すると、ジョンさんは
「大丈夫だろ、こっちには魔法使いもいるし、最悪の場合でも俺がいる」
力強く答えてくれた。
何でも、盗賊になるやつらは失敗した冒険者がかなりの割合を占めるらしく、魔法を使えるヤツや、Bランク以上の実力を持つものはかなり稀らしい。
つまり、俺達でも倒すのはさほど難しく無いという事だ。
「ヒヒっ、てめぇら!殺されたくなきゃ荷物全部置いてさっさと逃げな!!」
盗賊の先頭にいた男がナイフを舐めながら叫ぶ。
うわぁ、見てるだけで痛いんだけど……舌切ったりはしないのかな?プロなのかな?
「ふざけんな!行くぞ皆!!」
行くのはいいんですけど、なんでシンくんが音頭を取ってるんでしょうねぇ……
ここで、今の俺達について少し説明したいと思う。
俺は、一般的な旅人の服(に見える何か)を身につけ、腰に剣を履いてすら居ない。
アリスは、可愛らしい服を着ているのだけど、むしろそれも相まってただのおめかしした幼女。
ユキは見た目動きにくそうな和服を着た子供で、更に美少女。
まあつまり何が言いたいのかというと、盗賊から見ると完全にカモなのだ、俺達は。
「なんで、俺達の方にばっかくるんだよ!?」
「んにゃ〜!きもちわるいの〜〜!!」
「他の人の方にも行ってくださいよっ!!」
実に盗賊の半分以上が俺達の方に来ている。
いや、実際は何の問題も無いんだが…………
さて、迫り来る盗賊たちに対して俺は背負い投げを繰り出し、アリスは氷の槍で手足を貫き、ユキは峰打ちをしている。
ここまで来ると流石に盗賊達も違和感に気が付く。
然しそれは既に遅く、俺達の元に来た盗賊は全滅していた。
多分全員生きてるけど。
「あー、疲れた。ホント無駄に疲れた……」
「ん〜、お兄ちゃ〜ん。なでなで〜」
「ズルイですアリス!お父さん、私もお願いします!」
よーし、仕方ないなー。二人とも撫でてあげましょう!
あー、荒んだ心が癒されていくーー。
ようやく、シンくん達と乙女の行進のお三方の戦闘も終わったようで、俺達は対盗賊戦の後始末をしていた。
「酷いですよ、ジョンさん。俺達があんな大人数と戦ってるのに協力してくれないなんてー」
と、ジョンさんに愚痴をこぼす。
「うるせぇよ!手伝おうと思ってもお前ら余裕だったじゃねぇか!だいたい、おかしいのは嬢ちゃん達だけだと思ってたのに、お前も異様に強いしさー!」
まあね、確かに余裕でしたよ。
******
「あれ?なんか狼の声が聞こえませんでしたか?」
目の前にいたジョンさんに聞いてみる。
「ん?そうか?別に聞こえなかったが……」
うーん、気のせいだったのかな?
――ウォォーーン!!――
いや、気のせいじゃないな……
「ジョンさん!」
「ああ、確かに聞こえた!!」
盗賊の処理を中断して、全員に集まってもらう。
「狼、ですか?見てませんけど……」
「俺達もです」
エルさんもシンくんも狼は見てないらしい。
どうするべきか考えていると、
『マスター、来ました、件の狼です。総数五十二、囲まれています。さらに、上位個体もいるようです』
ソフィアさんからの報告が入った。
「来たぞ!あいつ……ら……だ…
嘘だろ……グレイトウルフの群れだと……」
そこにいたのは、体長三メートル、体高二メートルはあろうかという、大型の狼だった。
グレイトウルフ
Bランクの魔物で草原の覇者とも言われる狼型の魔物である。
その性格は極めて獰猛で、遭遇してしまえば逃走は困難と言われる。
本来、群れるような魔物では決してない。
もともと、冒険者のランクと魔物のランクは対応していない。
冒険者ランクBの人物が一人でBランクのグレイトウルフを倒せるかといえば、そうとは限らないのだ。
よって、ジョンさんが恐るのは仕方ないのだが、
「……きたきた、これで憂さ晴らしができる…
アリス!みんなに結界を!ユキ!お前は待機だ!」
「うん!」「はい!」
俺はアイテムボックスの中から、一本のナイフを取り出す。
『千刃ナイフ』・・・MPと引き換えに最大千本まで一時的に増えるナイフ
これをもって狼の方に駆け出す。
「バカ!お前に勝てる相手じゃねぇぞ!」
「そうです!すぐに逃げてください!」
ジョンさんとエルさんの声がするが気にしない。
しかし俺はこいつらで道具の実験をすると決めたのだ。レッツゴー!!
******
エルは混乱していた。『草原の覇者』グレイトウルフが出てきただけでも命の危機だというのに、それが群れで現れたこと。
そして、それに対して一人の少年が立ち向かおうとしていること。
「アリスちゃん、ユキちゃん!リョーガさんを助けなきゃ!グレイトウルフが相手なんて殺されちゃうよ!!」
それゆえ、エルは伝える。奴らを撃退できる可能性がある者に、その危険性を。
しかし、
「「えっ、なんで?」」
少女達は疑問をうかべる。
「どうしてそんなに落ち着いてるの!?」
「「だってお兄ちゃん(お父さん)だもん」」
少女達は平然と答える。
そしてエルは見た。
リョーガが数多の短剣を周囲に浮かべ、彼がグレイトウルフに手を向けるのを。
その短剣が一斉にグレイトウルフに突き刺さるのを。
あまりの衝撃にエルは戦慄した。
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