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ランクアップ試験!――そんなところに日本人――

「なるほど、行商人ってのも大変なんですねー」


俺達はゲルドさんと同じ馬車の中にいた。


ゲルドさんの馬車は三台で、こちらは三パーティー。必然的に一台の馬車に一つのパーティーが乗り込む事になった。


「わかってくれますか!冒険者の皆さんはなかなか行商の大変さをわかってくれないんですよ!」


この人、見た目は腹黒い商人なんだが、普段の生活でストレスが溜まっているのか、話を始めるとすぐに愚痴から入りやがった。


因みに、アリスは俺の膝の上でニコニコしていて、ユキは横に座っている。

二人とも話の内容は分かっていないと思われる。


「最近は魔王なんてのも噂になってますしね」


魔王!?そんなのも居るのか!!


「魔王って一体どんなのなんですか?」

「全ての魔物を率いる主ですね。まだ現れてはいませんが、魔物が活発化している事から魔王の出現が予想されているんですよ」


魔王といえば勇者だけど、こっちもいるのかな?


「過去にも何度か魔王は現れたようですが、今回の魔王はその中でも群を抜いて強いと予想されているんですよ」

「へぇ、大丈夫なんですか?」

「まあ何とかなりますよ。なんせ今回は『勇者召喚』なんてのを成功させたそうですからね」

「『勇者召喚』ですか?」


ネット小説みたいな事してるんだな……


「はい、召喚された勇者様は『レン・カンザキ』という方を筆頭とした四人だそうですよ」




…………何やってんだよ、日本人……


「へ、へぇ……と、ところで勇者召喚はいつ行われたのですか?」

「確か、先月だったはずです」


じゃあ女神に連れてこられた人とは別口かな?




「魔物が現れたぞ!コブリン八体だ!

今回はリョーガのパーティーが討伐しろ!」


ジョンさんの声が聞こえた。


ゴブリン八体か……まずはユキが出ればいいかな?


「じゃあユキ、頼める?」

「はい!行ってまいります!」


頼もしいね。まあゴブリン八体なんて手応えがないと思うけど。


「お兄ちゃん、アリスもやりたいっ!」


アリスが頬を膨らましながら言ってくる。


「ごめんね、次はアリスだからね」

「やくそくなの!」


良かった、許してくれたみたいだ。




「あの……リョーガさん?ユキさん一人で行ってしまわれましたけど……」

「はぁ?そうですけど……?」


むむむ、何を伝えたいんだこの人は。


「でも、ゴブリン八体ですよ!あんな小さい子に任せて大丈夫なんですか!?」


あっ、そういう事。

でもEランクでもゴブリンなら余裕を持って狩れると思うけど……


「ユキはつよいからだいじょぶっ!!」

「そうですよ、心配なら見ておいてください」

「……それなら、見させてもらいますよ!」



外では、ユキとゴブリン達が向かい合っていた。


「行きます!」


ユキが駆け出しながら叫ぶと、既に二体の首は存在しなかった。


そしてそのまま残りのゴブリン達も首を落とされるか心臓を突かれるかで絶命していた。


その間およそ一分である。




「ね、大丈夫だったでしょ」


ゲルドさんは固まっていた。

有り得ないものでも見たような顔をしていた。


アリスにゴブリンの後処理を任せていると、ジョンさんがやってきた。


「……おい、俺はお前達『パーティー』にゴブリンの相手を頼んだと記憶しているのだが?」

「もしかして、一人でやるのは拙かったですかね?でも、Dランクならあれくらいは一人で対処するでしょう?」

「いや、それはそうだが……そりゃベテランのDランクだろうが……」

「俺達は一人でやれるって事ですよ」


そう言うと、ジョンさんは一応納得した様子だった。




他にも何度か魔物に遭遇し、その際に他の面子の先頭風景も見ることが出来た。


シンくんとエリーさんのパーティーは堅実な剣技を見せたシンくんと、エリーさんの見事な弓術で狼の魔物を屠っていた。


まっ、俺達にはかなわないけどね!


そして、女の子たちのパーティー、『乙女の行進』は魔法使いと僧侶と剣士の三人だった。


こちらも安定した立ち回りで出てきたゴブリンを仕留めていた。




******


夕暮れ時。


野営の準備をしていると『乙女の行進』の女の子たちが話しかけてきた。


「リョーガさんですねよ?」


なんだろう?モテ期かな?


「少し気になった事があってきたんですけど――」




『乙女の行進』は魔法使いのエルをリーダーとして、剣士のルルナ、僧侶のミラの三人パーティーだそうだ。


んで、俺に話しかけてきた理由は、パーティーを組まないか?って誘いだった。


俺達が荷物をほとんど持って無いことから、誰かが亜空間収納を持っていると予想したらしい。


「せっかく誘ってくれた所を悪いけど、俺は別の誰かとパーティーを組む気は今の所ないよ」

「アリスも無いの!」

「私もありませんね」


「そうですか……」

「話は終わったか、エル?

あたしはそこの剣士の女の子と話したいんだけど?」


ルルナさんはユキに興味を示しているようだ。

まぁ、剣士としての腕はユキの方が上みたいだったし、話したいこともなるのだろう。


「……はあ…私の話は終わりましたけど…」

「ならいいな!なあ嬢ちゃん、ちょっと向こうでお話しようよ」


いやその言葉完全に誘拐犯ですよね……


ユキはこっちに困惑の試験を向けて来たので目線で行ってきていいよと伝えておいた。

すると、ユキはルルナさんに引っ張られていった。




「ただいまです、お父さん……」

「えらくぐったりしてるな……どうしたよ?」

「ルルナさんのお話が長くて……」


その晩、ユキはいつもよりぐっすり寝ていた。













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