1/22
序章
――いかなる組織でも、ほころびは些末な場所から訪れる。
国家においても、それは同じだ。
『民主論』作者不詳
序章
小ぶりの斧が陽光を受けてきらめいた。
振り下ろされた切っ先が、太い麻紐を切る。ひもはしゅるりと宙を舞い、先頭に結わえられた大きな板のような刃を落とす。
大地に吸い寄せられるように、分厚い刃が、下で待つ男の首へとむかう。
肉がちぎれる音がして、噴き出した血が彼女の衣服に染み付いていく。
同時に、ぽーんと、その首が宙を舞った。
長く尾を引く朽葉色の髪。
――あの人が死んだ。
次はわたしだろうと、彼女は粛然とした面持ちで、目を伏せた。
差し出された麻袋を被せられようとした、そのとき。
色とりどりの髪色が集まる群衆の中に、あの赤がね色を見つけた。
彼は必死にこちらへ駆けよろうと、人混みを裂いている。その、優しい碧眼と目が合った。
瞬間、これまでのことが彼女の脳裏を駆け巡った――