エピローグ
彼、武石宏大は俺の親友だった。
彼はいつも誠実で、素直で、優しかった。人を騙したり、馬鹿にしたりするような人間ではなかった。
俺は宏大のそんな所が好きで、いつも彼と一緒にいた。
小学三年生の時に俺がこの地に越してきてから、今日までの十二年間ずっと。
「なのになんでお前を信じなかったのかなぁ」
強烈な痛みが俺の体を襲う。それが体を抉る痛みなのか、心を抉る痛みなのかは、もうすでにわからない。
それでもそんな中、途切れ途切れに口から出た言葉は強い後悔だった。
隣に横たわった宏大の顔に右手で触れるが、宏大は全く動く素振りを見せない。そんな事実がさらに後悔を強くさせる。
深夜に突然、あんな意味不明な内容の電話を受ければきっと誰だって信じない。だからこそ宏大は俺に電話をしたんだろう。俺なら信じてくれるって。助けに来てくれるって信じて。
でも俺はそんな宏大の期待を裏切った。数人で大量の酒を仰いで、解散した直後だったから、大方酒の飲み過ぎが原因だろう、なんて思って。
宏大が迫りくる恐怖に怯え、必死に助けを求めていたのに、俺はそれを笑いながら流した。
「ごめんな……お前は最期まで俺のことを考えてくれてたって言うのにさ……」
宏大は最期まで宏大らしかった。自分の状態を理解した上で、平静を装った。俺を不安にさせないように、俺の気を紛らわせるように、何より俺が宏大の家に向かわないように。
そんな彼の最期の優しさにも気づかず、俺は平然と電話を切った。そして平然と宏大の携帯電話から送られてきたメールを信じた。
『さっきの電話びっくりしたか? あんなの冗談に決まってるだろ。もう一度二人で飲み直したくて、電話したんだけどつい悪戯したくなってな』なんて。酔っていても俺なら気付かないといけなかった。こんなメールを宏大が送るはずがないと。
「馬鹿だよな俺……。親友が助けを求めてきてるのに気付かなくて。親友なら簡単に気付けるようなことに気付かなくて。
そんな奴ならこんなことになっても当然かもな」
自嘲気味に鼻で笑おうとするが、それすらもうまく出来ているかわからない。
俺はゆっくりと宏大の顔から手を離し、そのまま床につける。赤く染まった絨毯はすでに温かさを失っていた。
「……今までありがとうな。宏大がいてくれたから、俺はこんなに楽しい人生を過ごせたんだ」
音が聞こえる。まるで小さな子供が水たまりの上を歩くかのような音。
一切の明りの無いこの部屋の中でそれが何の音なのかを確かめる術はない。だが、状況から考えて奴が戻ってきた音だろう。
こんな時、出来る事なら全力で逃げだすのが最善策だろうが、生憎俺の体はもう動かない。それに宏大の首を抱きかかえてこの暗闇の中、外に出るのは至難の技だろう。かといって、どのような状態であろうと彼を置き去りにするだなんてことは絶対にできない。
だから、俺はこのまま終わろう。
はい、ということで私の第十七期テーマ短編参加作でした。
……意味わかんなかったですかね?
まあそれも仕方ないと思います。申し訳ありませんでした。
今回私が挑戦してみたかった点が二つ。
一点目がテーマを蚊帳の外に追い出したテーマ短編の執筆です。前々から面白そうだしやってみたいなー、と思ってたんですよね。それで今回は小人を出さない部屋に小人が現れたを書こうと思ったんです。
もう一点が物語において一番重要なシーンを省いて、それを読者に想像してもらうような執筆すること。これも最初は他の作品でやろうかと考えていたのですが、今回一点目に挑戦するにあたって、なら一緒にこれにも挑戦してみよう、と考えたのです。
結果は散々です。
書きながら、これでは伝わる伝わらない以前に中身のない駄作に成り下がってしまうな、と思ってました。
いかに自分に技術がないかがよくわかりました。
まあ、挑戦して、学ぶことができたので、無駄ではなかったでしょう。
ということで、こんな感じで。
この経験を次回以降に役立てれれば、と思います。
ではでは。