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それからいくらかは、穏やかで変化のない日々が続いた。さすがにいつまでも学校に出てこないレクシオのことを訝る生徒が出てきたり、幼馴染の話を持ち出されたステラが途端にゆで上がるという奇妙な現象が起きたりしたが、それはまあ些事である。
そして、ある日のこと。
「ふう。今日もいい天気だなぁ」
秋晴れの空を見上げて平凡な台詞を漏らしたステラは、校門のところにいた。道を行く多くの生徒たちが、彼女を追い越していく。そんな中彼女自身も、大きな伸びをしてから歩きはじめ――ようとしたのだが、そこで声がかかった。
「ぃよっ、ステラさん! 相変わらず元気だな」
なんだかとっても陽気な声だった。不思議に思ったステラは、振り返って、振り返ってから見えた人を凝視すると、一切の動作を停止した。
そこにいたのは、一言で言えば幼馴染だった。つまりレクシオ・エルデだった。まだ先日の事件の傷跡が生々しく残っていたが、まあ当日に比べれば幾分かましになった。そんな彼が、制服を着て、学生鞄を持って、そこに立っていた。
ようやく事実を認めたステラが、ゆっくりと動作を再開する。
「れ、れれ、レク?」
「うん?」
相手は不思議そうに小首をかしげると、その直後におもいっきりステラの肩を叩く。
「そうだよ。なんだ、もしかしておまえ、俺が孤児院で療養中、どっかに頭ぶつけて記憶を喪失したとかいうんか?」
そんな冗談の飛ばし方は、まさしくレクシオそのものであった。心のどこかでちょっぴり憤慨しつつも、驚きが先に立ったステラは、とりあえず訊いた。
「その、あの、どうして? まだ怪我治りきってないんじゃ……」
「ん。ああ、そういうことか」
最初こそわけがわからんという顔をしていた彼だったが、質問の意図を理解すると笑顔で言った。
「いやまあ、確かにそうなんだけどな。日常生活には支障がなくなってきたんで、そろそろ学院行ってもいいんじゃないかってミントおばさんに言われて、それで」
「そ、そうなんだ」
なるほど、それなら何も問題はなかろう。あっさり認めると同時に、ステラは目がしらが熱くなるのを感じていた。しかし、それを無理矢理抑えつけて、彼女は『彼』の手を取る。
「お? なんだ?」
レクシオの素っ頓狂な声が上がった。ステラは前を向いたまま答える。
「なんでもないよ。ほら、行こう。もともと、今日はちょっとした『お楽しみ』をする予定だったし」
ちなみに、そう言う彼女のレクシオの腕をにぎっていない方の――つまり右手には、学生鞄とともに謎の袋が下がっていた。しかし彼女の後ろを行く幼馴染はそれに気付いた様子がないまま、首をかしげる。
「おたのしみ?」
ステラはそこで、振り返った。そして、精一杯笑ってやった。久し振りに、具体的にはブライスたちと友情を育んだとき以降はじめて、彼女が浮かべた心からの笑顔。それを見てぽかんとしているレクシオに、ステラは明るく告げる。
「お楽しみはお楽しみよ! 放課後まで待ちなさい」
言い終えると再び、笑顔のまま彼の腕を引いた。少年の、貴重な慌てふためく声を聞きながら、彼女はちょっとだけ吹きだしていた。
ちなみに――感極まって少しだけ泣きそうになっていたという事実は、くやしいので彼には秘密にするつもりだ。




