3
仮面舞踏会。
なにやら怪しげな雰囲気の宴だ。
これは、おれにとってここが敵の館であるからそう見えるんだろうか?
いや、そうではないだろう。
誰も彼もがみな仮面を被り、踊り狂う。
全てが仮面に隠されているのだから、その中に魔物が混じっていないとどうして言い切れるのだ?
一緒に来たベンヴォーリオとマーキューシオの姿はもうない。
おれがこの怪しい雰囲気に呑まれまいとしているうちに、奴らはさっさと呑み込まれてしまったらしい。
おや、あれはロザライン嬢だ。
どうしよう、声でもかけようか。
そう思っていたおれの目の前を、一人の少女が通り過ぎた。
おや、と思った。
おそらく、社交界に出たばかりの若い娘だろう。白いドレスの裾はやや短く、うっかりすると幼く見えかねないようなものだ。
だが、若い娘など、この宴の中にそれこそ掃いて捨てるほどいる。
それなのに何故か、その少女は目に付いた。
まるで彼女の周囲だけ、特別な光でも当たっているかのように。
不思議に思って目で追っていると、彼女は壁の方でそっと仮面を外す所だった。
その素顔を見て、ぎょっとした。
稀に見るほどに、美しい娘だった。年の頃は十五か、十六といったところだろうか。髪は少し珍しい赤銅色で、丸い瞳は明るい若草色。柔らかそうな唇に、真っ白な頬。今はまだ蕾のような少女だが、あと二年、いや一年もしないうちにきっと艶やかな貴婦人になるに違いない。あどけない美貌に、そう思わせるだけの気品と華やかさを湛えていた。
いったい、どこの令嬢だろう。
もちろんどこの家の令嬢だって、おれにとっては敵方ということに変わりはないが、しかし興味を惹かれる少女だった。
まだ恋を知らぬげな彼女に、恋を仕掛けてみるのも一興ってものかもしれない。
見つかればただでは済まないだろうが、それはロザライン嬢だって同じこと。
それなら、ロザライン嬢ではなく、あの少女に仕掛けてみようか。
ああ、でも、ああいう年頃の女の子は夢を見ている可能性があるな。
恋に恋するお年頃、って奴だ。
そんな少女だったら、手を出すのは考えものだ。
おれは遊び、向こうは本気、だなんて縁起でもない。
さて、それにしても、どうしたものだろう。
このまま放っておくには、いささか印象が強すぎるんだが。
そう逡巡しているおれの視線の先で、彼女に声をかけている男がいる。あれは……パリスか。
何を楽しみに生きているのか分からんような男だが、それでも娘たちには人気らしい。芸術を解さないような男のどこが良いのか、おれには全く解らないが。
少し、様子を見ていようか。
パリスに対する反応で、彼女がどんな人間か、少しは分かる筈だろうから。