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青に侵された屋上  作者: 櫻いいよ
Ⅰ僕等の空
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02日常は青空の下で


 ・


 SHRが終わって教室を出ると、先に終わっていた小毬が廊下で俺を待っていた。

 んじゃ帰るか、と並んで歩き出すと、隣の教室の廊下に面した窓からひょこっと顔を出している楓と目が合う。

「あれ? 今日はデート?」

「お、楓。今日は最後までいたんだ」

 俺たちの関係をいじるのは蓮も楓もみんな一緒だな。そんなんじゃないのをわかっているからこそ言うんだろう。

「遅刻したからねー。ほら、そろそろ受験に影響もあるし?」

「ははっ。お前がそんなこと気にするかよ。どーせ寝てたら終わってただけだろ」

「うはは、ばれた?」

 楓はにっと白い歯を見せて笑う。そして「あ、小毬。帰り蒼太に襲われたら殴ってやるから、あたしに言えよ?」と小毬に忠告を付け加える。

 なんの心配をしているんだか。そんなことしたことねえよ。

「え、なに? 小毬襲われるの?」

 話を聞いて楓と同じクラスの智郎が楓と同じように顔を出して聞く。

「ばーか」

 そう言って歩き始めると、小毬も「じゃあね」と楓と智朗に手を振ってついてきた。ぱたぱたと小走りで歩く小毬は、小動物みたいだ。目が合うと「ん?」と言いたげに首を傾げる。


 靴箱で革靴に履き替えていると、ぽんっと背を叩かれた。振り返ると蓮と、その隣に知らない女子。蓮の腕に腕を絡めている姿にもう彼女が出来たのかと思う。この前別れたんじゃなかったっけ? 昨日だっけ? 今日だっけ? 毎日の会話でいつだったか曖昧だけれど……どっちにしてもかなり早い彼女だ。

 しかもかなりの美人。

 ネクタイの色を見ると三年だと言うことは一目で分かる。

「じゃあな」

「おう」

 俺たちの会話に、蓮の彼女は会釈をする。頭を下げたときに髪の毛がさらりと落ちて、ちょっといい匂いがした。茶色の髪の毛が光に反射して金髪のように見える。こいつが付き合うのはいつも茶髪の女だな。黒髪美女には興味がないのだろうか。蓮は恥ずかしげもなく彼女の肩を抱いて歩いていく。


 なんだか見せつけられている気分だ。

 なんだ、もてる姿を俺に自慢したいのか。

 思わず苦笑を漏らすと、隣で「ほんっと、見境なく付き合うよね」と小毬が呟く。信じられない、とでも言いたげな小毬に思わず吹き出して歩き始めた。

「何笑ってるのよ」

「蓮と小毬は違う人種だなって思っただけだよ」


 くそまじめな小毬。

 だから、去年、高校に入ってすぐに同じクラスになったんだと言って楓を連れてきたときは驚いたっけ。今となっては気が合うのもわかるけれど。

 裏のない雰囲気の楓は、一緒にいると楽しいし、真面目過ぎて気を使いすぎる小毬にはちょうどいいのだろう。


 蓮は、といえば、楓と真逆だ。

 なにを考えているのか、小毬にはさっぱりわかんないんだろう俺にもわかるわけじゃないけれど。多分俺と蓮が友達じゃなければ、小毬も蓮とは友達になっていなかっただろう。


 出会った頃、小毬は蓮のことを本当に毛嫌いしていた。

 俺が一時期荒れていたときに、よく一緒にいたのが蓮だったので、蓮が原因だと思っていたようだ。その誤解がとけてからはそれなりに親しくなったけれど、それでも、もともと相容れない思考の者同士だからか、蓮に対して小毬が顔を顰めているのをよく見る。

 誰彼構わず付き合う自由な蓮と、一途な小毬。

 そういえば小毬の恋愛は、俺が知っている限りでは小学生の時の『まことくん』とやらで止まってる。

 まあ、俺からしても蓮の付き合い方は出来ない。ただ、あんなにも自由に振る舞える姿に羨ましさを抱くことはある。


 小毬は「本当に信じらんないなあ」と呟く。

「彼女とっかえひっかえだよー。好きでもないのに付き合えるなんて信じられない」

「男なんかみんなそんなもんだよ」

 みんなそうだ。真面目そうに見えてるのに浮気するような親父達があふれかえってるじゃないか。気にするだけ無駄だ。そんな人種なんだと諦めた方がマシ。

「蒼太は、違うじゃない。蒼太先週後輩の女の子振ったって聞いたけど」

 先週だったっけ? と思ったけどそれを言うとまた『女の子の告白に対して失礼だ』とかなんとか説教が始まるから適当に「あー、うん」とぼかす。

「好みじゃなかったの?」

「俺は可愛いだけでは付き合えるような性格じゃねーんだよ」


 確かにかわいらしい女の子だったけど。声を微かに震えさせながら俺に好きだと言ってきたときはちょっとときめく程度にはかわいかった。


 だけど……。俺は付き合えない。


「……俺はあの女子校の千晴ちはるちゃんが好きだから、な」

「無理無理」

 うっせーなあ。

 バカにした様な小毬の表情にむっとした顔を作る。

「高嶺の花だよ」

「わかってるっつーの」


 親しげにちゃんづけで呼んでいるけれど、俺と千晴ちゃんは一度も話したことがない。それどころか相手には俺の存在すら知られていないだろう。


 千晴ちゃんとは、俺らの通う電車の駅二つ先にある青嵐女子校の生徒だ。偏差値は俺らの高校よりも高く、面接で顔を重視しているんじゃないかと思うくらいに可愛い子が多い。凝った制服も可愛さを引き立てているようで、この辺りの男子高校生からはアイドルのような存在だ。そのミス青嵐が、千晴ちゃん。俺の中のミス青嵐。

 千晴ちゃんは、俺の家の最寄り駅から三つ後の駅で毎朝乗ってくる。

 黒髪ストレートヘアーの綺麗な女の子。顔は小さいのに目は大きくまつげも長い。ちなみに名前は電車の中で友達が呼んでいたから知っているだけ。そして多分同い年。これはテスト前に手にしていた教科書からわかったことだ。

 身の程知らずなのは充分分かってる。それでも可愛いんだから仕方ないじゃないか。アイドルなんかよりもよっぽどかわいい。

「蒼太もそろそろ彼女作ればいいのにー。中学からいないんじゃない?」

「一度も付き合ったことない奴に言われたくねえよ」

 こつっと小毬を軽く叩くと、大げさに「いったー」と小毬が叫んだ。


「でも、やっぱり、蒼太は違うよ、蓮とは」

「……わっかんねーよ、もしかしたらそのうちおんなじようになるかもしれないんじゃね? なんせ……ね?」

 小毬の方に振り返ってにかっと笑うと、小毬は悲しそうな顔をする。

 そんな顔しなくてもいいのに。そう思いながらも、そうさせたのは自分か、と小毬から視線を逸らした。

 この手の話になると俺はいつも小毬にそんな顔をさせてしまう。そうすることで……俺はなにを望んでいるんだろうか。


“そんなことない”なんてありきたりな言葉がほしいわけではないのに。



 小学校から小毬は、ずっと変わらない。

 家が近かったこともあって、昔から俺の後をついて回ってきて、俺も小毬とはよく遊んだ。お互いの家にしょっちゅう通っていたくらい仲がよかった。

 明るくて優しい所があるのは昔から知っている。だからこそ美紅のことに気を遣ってくれることも。

 巻き込んだ俺に気を遣わせないように振る舞っていることだって本当は分かっている。それに助けられているのも事実だ。

 なのに俺はいつも、小毬を困らせてばっかりだ。


「女の子もそんな風に思う?」

 小毬はすがるように俺を見て呟いた。

 そんなの。俺は女じゃないしわかんねーよ。

 でも、人の気持ちなんかそんなもんなんじゃねえの? 移り変わっていくものなんだろ? ずっとひとりを、なんてそんなの夢物語だ。

 ……そんなことを言ったらまた小毬は悲しそうな顔をするんだろうな。そう思い苦笑を零してから小毬の鼻をぎゅっと潰す。

「いった!」

「さーね? あ、でも美紅は違うかな」

「……シスコンねー本当に」

 俺の言葉に小毬は呆れた様に笑った返事する。

 笑っていればいい。気にしないフリをしていればいい。小毬はなにも気にしないでいい。そうしていれば本当にそのうちどうだってよくなるから。


 ……俺のように。



 外に出ると、相変わらずの太陽が俺らを照らす。これじゃ美紅の所に行く頃には汗だくだろう。

 夏はまだまだ続くんだなと、太陽を見て思った。


 ・


 電車に乗って数分間、家の最寄り駅まで揺られて降りる。そこから家とは違う方向のバスに乗って徒歩五分ほど。その道のりを小毬と他愛ない話をしながら進んだ。

 小学校が見えてきたなと思った瞬間に、「あ、お兄ちゃん!」という美紅の明るい声が響く。

「おー待ったか?」

 校門で俺を見つけて手を振る美紅の姿を見つけると俺は小走りで美紅の元に向かっていく。

 膝上のワンピースにレギンス。我が妹ながらかわいいな。そう思っていると、ぱたぱたと音を鳴らして向かってきた美紅はそのまま俺にドンとぶつかって見上げてきた。

「ううん、今来た所—」

 にこっと微笑む美紅の顔に、俺も釣られて笑った。


 小学二年生になった美紅の髪型は今日も俺がセットしたツインテールがよく似合う。猫っ毛で赤みのある髪の毛は、無邪気な美紅によく似合う。

「あ! 小毬ちゃんだー」

 俺の後ろにいる小毬の姿にまた嬉しそうな顔をした美紅を見て、小毬も連れてきてよかったと素直に思った。


 美紅の通う小学校は、低学年の間は迎えが必要だった。保護者が迎えに来れない場合は、友達の保護者と一緒に、という決まりがある。

 というのも、一時期小学生の男女関係なくイタズラされるとかいう事件があったから、という理由だ。最近ではそんな話は聞かないけれど、数年前までは定期的にそんな事件があったらしい。

 授業が五限までの日は俺が。その他は親父が迎えに来る。俺も親父も無理なときは友達のおばさんが美紅と一緒に帰ってもらうことになっている。


「はいこれ」

 家までの道のりを歩きながら、小毬が鞄から小さな袋をとりだして美紅に渡す。

「わーこの前のクッキー!?」

「そうそう、今回は違う味も混ざってるよ」

「俺のは?」

 ふたりが手を繋いで歩く傍で、俺も小毬に手を出す。今小腹が空いているんだからくれよと出した手をふるふると軽く上下に振ると、「ないけど?」と小毬が驚いた顔で返事をした。

「はー!? お前マジで?」

「いつもはいらないとか言う癖にお腹空いてるからって急に言わないでよー。作ってきたらきたで、甘いとか文句ばっかり言うクセに」

 そんな事言われても、今日はお腹が空いてるんだから仕方ないじゃねえか。

 甘いものはそんなに好きじゃないけれど、小毬のお菓子は俺の好みに多少合わせてくれているのかさほど甘くない。文句を言いつつ毎回綺麗に食べ尽くしているというのに。

「お兄ちゃん振られたの?」

「それは違うぞ? 美紅」

 むすーっとしていると、憐れみの目を向ける美紅と視線を正面にして諭すように呟いた。

「美紅の、帰ったら一緒に食べよう」

 可愛いなあ美紅は。貰った袋を手にしてにこっと微笑む美紅は俺のオアシスだ。

「もー蒼太が気まぐれだからー」

 ぶつぶつ文句を言う小毬に、「美紅は優しいなあー小毬と違うなあ」と言うと、小毬はなおさら頬を膨らませた。

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