金尾重悟と云ふ男
〈東雲に朝來たりけりお目出度き 涙次〉
【ⅰ】
さて、2026年の初春が來た。カンテラ一燈齋事務所のメンバー勢揃ひで元日を祝ふ。牧野特製の雜煮が振る舞はれ、一味全員が屠蘇を頂いた。カンテラ、じろさん、テオ、悦美、杵塚、安保さん、涙坐、牧野、時軸、尾崎一蝶齋、ルシフェル、君繪、由香梨、嬰児の翔吉、岩坂十諺の亡靈、〈翁〉、白虎、ロボテオ2號、タロウ、でゞこ・文・學・隆の猫逹... が一堂に會した。年初に当たり、カンテラが訓示。「皆の衆、2026年です。魔界は潰滅狀態だが、【魔】はまだ人間界に蔓延つてゐる。今日は【魔】に負けぬパワーを蓄へる日。干支の丙午に負けぬやう、今年も惜しげなく、そのパワーを放出して參りませう!」拍手。ルシフェル、骨だけになつた彼は一味でも異色の存在だつたが、普段墓に籠つてゐるので、初めて見るメンバーもをり、人氣を博した。安保「ルシフェルさん、初めまして」-ルシフェル「あんたはさう云ふが、儂はあんたの事良く知つてゐる。儂が魔界を率いてゐた頃、散々お世話になつたからな」と初皮肉・笑。そんなやんやの交流の中、元朝は過ぎた。
【ⅱ】
で、年賀狀のチェック。悦美は翔吉の事で手一杯だつた(* 何せ産後間もない)ので、お年玉を貰つてほくほく顔の由香梨が代行した。澄江さんを皮切りに、石田玉道(彼はこの地球上で日本だけの「年賀狀」と云ふ習慣を面白がり、エンジョイしてゐた)、「魔界健全育成プロジェクト」代表・仲本堯佳、同キャップ佐々圀守、永田・八重樫火鳥、枝垂・木場惠都巳(こゝら邊は冥府から)、中目朱那(怪盗もぐら國王は惡党らしく連名を避けてゐた・笑)、「ギャレエヂM」村川佐武、東都新聞社社會部付特別主筆・上総情、雪川組組長・雪川正述、エクソシスト・薩田祥夫、三笑亭夢太夫、同夢雀・POMの助(POMは字は讀めるが、躰の構造上、書けないので、足形をスタンプして送つて來た)、楳ノ谷汀、市上馨里、「東日本超心理學研究處」處長・町木正實、東亞大學バイオテクノロジー研究處顧問教授・天神一享、本沖彦市、河邊寅美、「をばさん」砂田御由希、田咲志彦・節・光流の一家、比良賀杜司とチャム、結城輪、安保卓馬・寄與美、木嶋美奈美、タイムボム荒磯・力子(大晦日に會つたばかりだが...)などなど。實際には300通を超える賀狀が届いたので、その全てを紹介は出來ない。また各人の初出は説明するとくだくだしいので、それは避けて置く(順不同)。
* 前シリーズ第167話參照。
【ⅲ】
で、問題の賀狀が一通。金尾重悟からの賀狀である。それには、「お年始に伺ひます」と書いてあつた。金尾- ゴーレムに變身するシオニスト。嘗てカンテラ一味の金錢出納役だつた男。*「ゲーマー【魔】」との闘ひに於いて躓いた彼は、一人間として巷に放逐された(彼もまた【魔界】の出身者である)。その金尾が何故、今? とカンテラは訝しんだ。
* 前シリーズ第108〜115話參照。
※※※※
〈屠蘇が利き身を重しと見る我然し人生絶頂期にあれり今 平手みき〉
【ⅳ】
金尾は裸で路傍に置き去りにされた過去を忘れさせる、カンテラ一味にゐた頃- まだ* 謝遷姫の許婚者であつた頃- を彷彿とさせる、ぱりつとしたビジネスマン・スタイルで、カンテラ事務所「相談室」の客となつた。タロウは眠つてゐる。また、嚴重に二重三重の結界の張られた「相談室」にゐても、別段變はりはない。カンテラ、正直彼が三度の魔道墜ちを果たしたと思ひ、警戒してゐたのだが、だうやらそれは勘繰りに過ぎなかつたやうだ。
* 前々シリーズ第139話參照。
【ⅴ】
「その後、だうしてゐたのですか?」-カンテラはわざと他人行儀な口の利き方をした。最早金尾はカンテラの部下ではない。一味にとつては鬼門とすべき過去を持つ、一人の厄介な客に過ぎない。「カンテラさん、まづは貴方の警戒心を解いて下さいよ」-と金尾、以前には見られなかつた横柄とも云へる口振りで、これでは主客轉倒である。彼は確かに魔界からは足を洗つた。だが、人間の「邪惡」と云ふものを身に着けてゐたのだ。「カンテラ事務所、だうやらブラック企業らしいぞ!?」と、黑々と印字された、原稿と覺しき書類をひらひらとさせ、「これを發表されたくなければ、5百萬圓用意して貰ひたい」-カンテラにとつてはたかゞ5百萬、なのであるが、こんな子供騙しの脅しに引つ掛かる彼ではない。「何を証拠に、我々を『ブラック』と云ふのです?」
【ⅵ】
「まづは貴方のその腰の物だ。それで威圧して、此井先生やテオくんを屈從させてゐる。勿論、私も嘗てはその『屈從組』の一人だつた」-「次に、一箇の企業體であるべき事務所を、仲間感覺で治めてゐる。仲間外れになつた者は、冷酷に捨てられ、私の如きあぶれ者となる。これは『虐め』だ」-こゝに至つてカンテラ、癇癪玉が破裂した。「そんなに斬られたいなら、斬つてやる! 其処に居直れ!」-金尾「そら見た事か」と云つてゐるその最中に、金尾の首は胴體を離れてゐた。「しええええええいつ!!」。首は云つた。「俺が魔界出身者である事を忘れたか」そして金尾の首はけたけた嗤つた...
【ⅶ】
「初夢は、惡夢だつたな」-カンテラ、「相談室」の天井を仰ぎ、放心した。これで金尾の魔道墜ちは決定的になつた。年初から一つ心配の種を、自らの短氣で招いてしまつた- カンテラは縋れる者なき我が身を哀れんだ。
※※※※
〈血で濡れた元朝もあり世界には 涙次〉
【ⅷ】
ルシフェル「儂は、それは致し方ない事だと思ふ」-カンテラ「然し金尾は厄介だ」-ルシフェル「久々の酒だ。とくとお主と語らひたい」-「分かつてくれるのは、じろさん、テオとあんたぐらゐのものさ」-「此井、猫も呼ばう。きつといゝプランが浮かぶさ」元旦から仕事の話か。浮かばれないね、俺。と思はず自己憐憫の飛び出たカンテラの初春だつたとさ。お仕舞ひ。
と云ふ譯で、我が『カンテラ物語』、2026年も續きます。だうぞご贔屓に。それぢやまた。




