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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第8話 勇者の違和感

 朝の訓練場は、いつも通りだった。


 魔力制御の基礎訓練。

 模擬戦形式の反復。

 汗を流し、剣を振り、仲間と笑い合う。


 何も変わらない日常。


 それが、この学園の正しさだと、俺は思っていた。


 聖女リリア・アルヴェーンの姿が、訓練場の端に見える。


 数人の生徒に囲まれ、何かを相談されているようだった。

 彼女は頷き、穏やかに微笑み、次の場所へと向かっていく。


 忙しそうだ。


 以前より、明らかに。


「リリア」


 声をかけると、彼女は足を止めた。


「どうしました?」


「最近、休めてるのか?」


 ほんの気遣いのつもりだった。

 だが、彼女は一瞬だけ言葉に詰まった。


「大丈夫です」


 すぐに微笑む。


「心配いりません」


 その笑顔に、違和感が残った。


 無理をしているようには見えない。

 けれど、どこか張りついたような笑顔だった。


 彼女が立ち去ったあと、俺は訓練を再開した。


 剣を振る。

 魔力を流す。


 身体は問題なく動く。


 それなのに、頭の片隅で、別の声が響いていた。


「無限に助けられると思うな」


 あの公爵子息の言葉。


 切り捨てるようで、冷たくて、

 だからこそ、記憶に残っている。


 ……なぜ、今になって思い出す。


 午後の模擬戦で、異変は起きた。


 創立祭で祝福を受けた生徒の一人。

 確か、あの時は重い疲労を訴えていたはずだ。


 今は、誰よりも動きがいい。


 魔力の出力が高く、制御も安定している。

 才能が開花した、と言われてもおかしくない。


 だが。


「……おい」


 模擬戦の途中、彼は一瞬、動きを止めた。


 次の瞬間、魔力が跳ね上がる。


 制御が乱れ、結界が軋んだ。


「大丈夫か!」


 俺が声をかけると、彼は首を振った。


「平気です。ちょっと、力が出すぎただけで」


 周囲は笑って流した。


「さすが祝福を受けただけあるな」


「才能が目覚めたんだろ」


 そういうことに、なった。


 俺も、その場では否定しなかった。


 否定できなかった。


 だが、胸の奥に、引っかかるものが残る。


 強くなった。

 だが、それは本当に“正しい強さ”なのか。


 訓練が終わり、夕暮れの校舎を歩く。


 ふと、窓に映る自分の顔を見る。


 正義の側に立っているはずの顔。


 それなのに、どこか迷っている。


 聖女は間違っていない。

 人を救っている。

 称えられるべき存在だ。


 それでも。


 もし、あの公爵子息の言葉が、

 ただの嫌がらせではなかったとしたら。


 もし、あれが警告だったとしたら。


 考えすぎだと、自分に言い聞かせる。


 答えを出すには、材料が足りない。


 だから俺は、ひとつだけ決めた。


 記録を取る。


 祝福を受けた生徒たちの魔力変動。

 訓練中の数値。

 体調の変化。


 教師には報告しない。

 聖女にも伝えない。


 ただ、事実として残す。


 それが正しいかどうかは、まだ分からない。


 分からないからこそ、確かめる。


 正義は、まだ疑うことを知らなかった。


 だが――

 疑いの芽は、確かに生まれていた。


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