第78話 中心点
溶けたのは、一人だけではなかった。
学園の観測記録が、異常な波形を示す。
二人目の兆候。
だが、今回は消失しない。
途中で止まっている。
「……収束している?」
分析官の声が揺れる。
同調波形が、一点へと引き寄せられている。
座標は明確。
観測対象α。
レオナール・フォン・グラントヴァル。
森の奥で、彼は空気の変化を感じ取る。
歪みは静かだ。
むしろ、穏やかすぎる。
「……引いている」
周囲の揺らぎが、薄い。
代わりに、胸の奥へ集まる。
世界が、焦点を定めている。
女が低く呟く。
「中心点」
均衡は分散を嫌う。
最適化は一点化。
複数の適合者を選別するより、一人を固定する方が効率的。
「一点で足りる」
言葉ではない圧が、脳裏に響く。
他の揺らぎが、静まる。
同調しかけた学生の波形が、完全に消える。
救われたのではない。
“対象外”にされた。
選別は終わりつつある。
残るのは一人。
レオナールは理解する。
自分が核になれば。
他は削られない。
選別は止まる。
均衡は安定する。
女が彼を睨む。
「核になる気?」
声は鋭い。
合理を越えた響き。
学園は動き始めている。
観測対象αの強制隔離案。
結界封鎖準備。
捕縛か、封印か。
第三勢力も本拠から指示を待つ。
「最終段階に入る」
女は通信を切る。
彼女の立場は揺れている。
守る側に立つのか。
処理する側に戻るのか。
世界の圧が、さらに強まる。
拒絶ではない。
歓迎。
受け入れ。
均衡は一点を求めている。
レオナールは目を閉じる。
溶ければ楽だ。
だが、これは逃避ではない。
選択だ。
他を救うための固定。
胸の奥が、静かに応じる。
「……まだ選ばない」
今は。
だが、理解している。
いずれ決める。
均衡は一点を求めている。
そして。
その一点は、彼以外にいなかった。




