第67話 一つ減る
追跡圏を抜けたはずの森で、レオナールは膝をついた。
呼吸が浅い。
視界の端が白く滲む。
固定歪みが、内側から軋んでいる。
――あと二回。
自覚はある。
沈めれば沈めるほど、内側の“受け皿”は削れていく。
それでも止まらない。
遠くで、空が揺れた。
次の瞬間、圧が一気に膨れ上がる。
街道と小都市の境界。
連鎖爆発型。
放置すれば、市街地に侵食する。
「……最悪だな」
退くという選択肢はない。
同時に、別方向から気配が近づく。
黒装束の女。
「規模が大きい」
冷静な観測。
「制圧班も向かっている」
さらに、遠方から整然とした魔力の波。
三方向接近。
歪みは、すでに地面を裂き始めている。
「今回は退きなさい」
女が言う。
「あなたが入る規模じゃない」
合理的判断。
正しい。
だが。
「間に合わない」
レオナールは、前へ出る。
市街地まで、あと数分。
制圧班の包囲では遅い。
切断型では反転する。
沈めるしかない。
「あと二回だ」
自分に言い聞かせる。
歪みの中枢へ意識を落とす。
重い。
深い。
広い。
固定歪みが、悲鳴を上げる。
だが、止める。
全開。
中枢を抱え込む。
引き寄せる。
吸い込む。
爆ぜる寸前の圧を、内側へ落とす。
地面の裂け目が閉じていく。
空の歪みが沈黙する。
市街地の境界で、侵食が止まる。
成功。
だが。
視界が暗転した。
膝が崩れる。
身体が、重い。
内側が、空洞のように冷える。
固定歪みが、乱れている。
抑えきれない。
女が、素早く支える。
「……愚かね」
だが、声は硬くない。
「あと一回よ」
事実の提示。
残り一回。
制圧班が到達する。
異常出力を観測し、沈黙する。
規格外。
管理不能。
レオナールの意識が、遠のく。
呼吸が浅い。
視界が白く溶ける。
世界は救われた。
だが。
彼の余命は、確実に縮んだ。




