第63話 共闘の条件
歪みは、隠す気がなかった。
街道沿いの小さな集落。
空気が重く沈み、地面の石畳が軋んでいる。
連鎖型。
一つを沈めれば、隣が跳ねる。
「……面倒だな」
レオナールは、速度を上げた。
追跡圏が背後から迫っている。
だが、放置はできない。
現場に到達した瞬間、違和感が走る。
外周が、すでに削られている。
黒い歪みの縁が、綺麗に切断され、拡散を止められていた。
「遅い」
背後から声が落ちた。
振り返る。
黒装束の女が立っている。
仮面はない。
顔を隠さない。
冷静な目。
無駄な感情は乗っていない。
「外郭は私が切る。
中枢はあなたが沈めなさい」
命令形だった。
対等というより、即断。
レオナールは反発しない。
「合理的だ」
外周を力で削り、爆発の連鎖を抑える。
その隙に中枢を沈める。
思想の違いを、機能として使う。
女が外縁に走る。
刃のような魔力が走り、歪みの枝を次々に切断する。
荒い。
だが速い。
レオナールは中枢へ意識を落とす。
沈める。
引き寄せる。
固定歪みが、強く脈打つ。
「……っ」
一瞬、制御が乱れた。
中枢が跳ねる。
爆発寸前。
その瞬間。
外縁の圧が、変わった。
女が、外側から歪みの振動を抑え込む。
爆ぜない。
沈静へ戻る。
処理が完了したとき、追跡圏の圧が一段近づいた。
女は息も乱していない。
「あなた、長くは持たないわね」
観察結果の提示。
感情はない。
レオナールは否定しない。
「あと三回」
彼女が続ける。
「それ以上は壊れる」
正確だった。
固定歪みの負荷を、理解している。
学園側の圏が、集落の外縁を囲む。
「離脱」
女は短く言い、背を向ける。
レオナールも動く。
圏が閉じる直前、二人は消えていた。
離れた地点で、女が立ち止まる。
「共闘は継続可能」
振り返らない。
「ただし、あなたは私の条件を飲むこと」
「内容は」
「処理領域の分割。
情報の即時共有。
そして――私の判断に異議を唱えないこと」
主導権の提示。
利害一致。
対等だが、距離はある。
レオナールは、数秒だけ考えた。
「異議が合理的なら」
女は、わずかに口元を歪める。
「悪くない返答ね」
名前は名乗らない。
所属も言わない。
ただ、一歩距離を取る。
「次の兆候は北東。
単独では間に合わない」
情報を残し、姿を消す。
残された空気は、静かだ。
共闘は成立した。
だが。
信頼は始まっていない。
これは、契約だ。
そして主導権は、まだ彼女が握っていた。




