第61話 招かれざる連絡
小規模な歪みだった。
森の縁、街道から外れた低地。
空気がわずかに濁り、地面に薄い波紋のような揺らぎが走っている。
レオナール・フォン・グラントヴァルは、周囲の圧を確かめながら近づいた。
追跡圏の密度は、少し後退している。
だが油断はしない。
「……処理できる」
規模は軽い。
沈めるだけなら、問題はない。
意識を重ね、歪みの構造を読む。
その瞬間。
「……?」
違和感が走った。
歪みの内部に、整いすぎた部分がある。
本来、無秩序に絡まるはずの流れが、
一部だけ削られ、並び替えられている。
触れられている。
しかも、雑ではない。
意図的だ。
レオナールは、さらに深く観測する。
削られた部分に、微細な魔力配列。
文字ではない。
符号だ。
短い。
観測済。
次に、別の層。
干渉可能。
さらに。
単独、非効率。
息が、わずかに止まる。
「……こちらを見ているな」
これは攻撃ではない。
警告でもない。
連絡だ。
第三勢力は、自分の存在を把握している。
処理方法も、負荷も、理解している。
そして――評価している。
単独、非効率。
否定はできない。
遠くで、追跡圏がわずかに締まる気配がする。
学園側の網が、再調整されている。
時間はない。
罠か。
可能性は高い。
協力か。
保証はない。
利用か。
向こうも同じことを考えているだろう。
レオナールは、歪みを沈める。
符号部分だけを残さず、丁寧に解体する。
応答はしない。
だが、拒絶もしない。
胸の奥が、静かに疼く。
孤独ではなくなった。
だが、安心もできない。
第三勢力は、観測者だ。
歪みだけではなく――
自分を観測している。
追跡圏が、また一段、近づく。
選択は、迫られている。
レオナールは立ち上がり、進路を変えた。
接触地点を探すわけではない。
だが、可能性の交差点へ近づく。
観測されているのは、
歪みだけではなかった。




