第6話 悪役の処分
魔法学園は、成功の余韻に包まれていた。
創立祭は何事もなく終わり、
聖女リリア・アルヴェーンの名は、学園の外にまで広がっている。
人々は救済を語り、
希望を語り、
未来を信じていた。
その輪の中に、俺はいない。
廊下を歩けば、視線が避けられる。
声は潜められ、距離が取られる。
公爵家の名は、まだ効力を持っている。
だがそれは、尊敬ではなく警戒としてだ。
それでいい。
式典の翌日、俺は学園上層部に呼び出された。
重厚な扉の向こうに並ぶのは、学園長と数名の高位教師。
誰もが、困ったような顔をしている。
「グラントヴァル公爵子息」
学園長が、静かに口を開いた。
「君の一連の言動について、協議した結果を伝える」
来ると分かっていた話だ。
「処分、ですね」
先にそう言うと、場の空気がわずかに揺れた。
「……理解が早いのは助かる」
学園長は、短く頷く。
「君には当面、以下の制限を課す」
淡々と読み上げられる内容。
聖女および勇者への接触禁止。
実技授業への参加停止。
式典・行事への不参加。
学園内行動の一部制限。
追放ではない。
停学でもない。
――隔離だ。
「学園の秩序を守るための措置だ」
建前としては、十分だろう。
「異論はありますか」
問われて、俺は首を横に振った。
「ありません」
即答だった。
誰かが、拍子抜けしたように息を吐く。
「……分かりました」
それで、話は終わった。
あっけないほど、静かな断罪だった。
部屋を出て、廊下を歩く。
怒りも、悔しさも、湧いてこない。
むしろ――確認が取れた。
まだ、この世界は余裕がある。
俺を完全に排除しなければならないほど、
事態は切迫していない。
つまり。
「……まだだ」
世界は、本気で壊れてはいない。
それが分かっただけで、十分だった。
制限された生活は、静かだった。
授業に出られない時間が増え、
人と接する機会は減り、
代わりに、一人で過ごす時間が増える。
俺は記録庫に通った。
許可された範囲で、古文書を読み、
魔力災害の記録を整理し、
過去の“偶然”を拾い上げていく。
やはり、どれも似ている。
聖女の活動が活発になった後、
説明のつかない異変が起きる。
だが、誰も因果を結びつけない。
その夜、小さな後始末を一つ片付けた。
創立祭で祝福を受けた生徒の一人。
魔力値が危険域に入りかけていた。
教師は気づいていない。
本人も、自覚がない。
俺は、記録を書き換え、
測定の再検査を促し、
一時的に負荷を下げる処置を施した。
目立たない。
評価されない。
誰にも知られない。
だが、それでいい。
正義が光を浴びるなら、
悪役は影に立つ。
窓の外では、学園の灯りが穏やかに揺れていた。
平和だ。
今はまだ。
俺は、聖女を救わない。
勇者を称えない。
理解を求めない。
ただ、役割を果たす。
この世界が壊れないように。
それだけが、俺に許された居場所だった。




