第54話 包囲網
会議室の結界が、静かに閉じられた。
外部遮断。
内部限定。
机の上に並べられたのは、数枚の結晶盤と紙束。
「候補は……この五名まで絞れた」
教員の一人が、淡々と告げる。
盤面に、名前が浮かぶ。
その中に、レオナール・フォン・グラントヴァルがある。
誰も、声を上げない。
だが、視線が集まる。
「体調ログの異常」
「魔力変動」
「結界理論の理解度」
一つひとつは、決定打にならない。
だが、重なる。
「可能性は高い」
そう言った教員がいた。
「だが、証拠がない」
慎重派が即座に返す。
「だからこそ、重点監視だ」
結論は、そこに落ちた。
断罪しない。
詰問しない。
だが、離さない。
学園の空気が、さらに変わる。
レオナールの近くには、常に誰かがいる。
授業中、後方に教員。
訓練場では、上級生。
移動の際は、偶然を装った同行。
包囲は、目に見える形になった。
レオナール・フォン・グラントヴァルは、黙ってそれを受け入れる。
反発しない。
疑問も口にしない。
それが、最も自然だからだ。
胸の奥の重みは、相変わらずだ。
いや、少しずつ、増している。
エリシアは、はっきりと異変に気づいた。
視線の数。
配置の変化。
会話の間。
放課後、すれ違いざまに小さく言う。
「……狙い撃ち」
レオナールは、頷いた。
「そうだな」
短いやり取り。
それで十分だった。
夜。
寮の部屋。
レオナールは、窓際に立つ。
胸の奥が、強く反応した。
これまでより、はっきり。
「……次は、大きいな」
遠隔観測。
歪みの“質”が、違う。
溜まりが、広い。
深い。
前回より、確実に厄介だ。
条件①。
被害拡大の兆候。
成立方向。
条件②。
英雄は、まだ戻らない。
成立。
条件③。
この規模を、教員部隊が力で抑えれば、爆発する。
沈められるのは――自分だけ。
ほぼ、確定。
レオナールは、ゆっくりと息を吐く。
「……次は、戻れないかもしれないな」
誰に向けるでもなく、呟く。
それでも。
引かない。
包囲は、
もう完成しかけていた。




