第50話 追及前夜
会議室の灯りは、まだ消えていなかった。
結界図と行動ログが、静かに投影されている。
「そろそろ、直接話を聞くべきだと思う」
一人の教員が言う。
「可能性の段階で詰問するのは危険だ」
慎重派が即座に返す。
「だが、このまま放置するのも危険だ」
沈黙。
結論は、曖昧なまま固まった。
「準備だけ進める」
誰も、反対しなかった。
追及は決まった。
ただし、時期は未定。
その頃、学園内では配置が変わり始めていた。
巡回の頻度が上がる。
場所が変わる。
“通り過ぎる巡回”から、
“留まる巡回”へ。
寮の出入口に立つ教員。
訓練場前で立ち止まる上級生。
レオナール・フォン・グラントヴァルは、歩きながら理解した。
自分が対象だ。
理由は、いくつもある。
視線が合う時間。
質問の内容。
巡回の位置。
偶然ではない。
「……来てるな」
小さく呟く。
それでも、準備は止めない。
抜け道の再確認。
一つ、使えなくなっていた。
物資搬入口。
新しく封がされている。
だが、他はまだ生きている。
完全ではない。
それが、唯一の救いだ。
放課後、エリシアと並んで歩く。
「……私たち、見られてる」
「分かってる」
言葉は短い。
長く話すと、拾われる。
人気のない場所で、立ち止まる。
「もし、呼ばれたら」
エリシアが言う。
「私は、何も知らないって言う」
レオナールは、否定しない。
「否定も肯定もしない」
「それでいい」
二人の間に、暗黙の役割分担が生まれる。
共犯ではない。
だが、無関係でもない。
夜。
部屋で、灯りを落とす。
胸の奥が、強く反応した。
これまでより、はっきり。
「……規模が違うな」
遠隔観測。
北西より、さらに広い。
内部圧、高。
学園の監視盤も、反応し始めている。
教員たちの足音が、廊下を走る。
条件①。
被害拡大の兆候。
成立。
条件②。
英雄は、まだ戻らない。
成立。
条件③。
今動けば、確実に疑われる。
だが、動かなければ――。
「詰む前に越えるか」
小さく呟く。
「越えずに詰むか」
ベッドには、座らない。
眠らない。
ただ、待つ。
追及は、もう始まっている。
ただ、
言葉になっていないだけだ。




