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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第5話 救済の日

 その日は、最初から“特別”として扱われていた。


 魔法学園創立祭。

 年に一度、外部からも来賓を招き、学園の成果を示す行事。


 そして原作では――

 聖女リリア・アルヴェーンが正式に「公の聖女」として認められる日だ。


 祝福。

 称賛。

 救済。


 すべてが用意されている。


 俺は、観客席の端に立っていた。

 表向きは、参加を許されただけでも温情という扱いだ。


 実際、俺の立場はかなり悪い。


 先日の実技での発言以降、

 教師からの監視は露骨になり、

 貴族生徒からは距離を置かれ、

 平民生徒からは完全に敵視されている。


 それでも、ここに来た。


 ――来ない選択肢はなかった。


 原作知識が、頭の中で警鐘を鳴らし続けている。


 この日、起きる。


 必ず。


 式典は順調に進んだ。


 学園長の長い挨拶。

 貴族たちの拍手。

 形式ばった祝辞。


 そして。


「次に、聖女リリア・アルヴェーンによる祝福の儀を行う」


 空気が変わった。


 期待と高揚が、はっきりと伝わってくる。


 リリアが壇上に上がる。


 白い衣装。

 光を受けて、ひどく眩しく見えた。


 少し痩せた肩。

 それでも背筋は真っ直ぐで、迷いはない。


 彼女は、選ばれた存在だ。


 選ばれ、縛られ、逃げられない。


 儀式が始まる。


 聖女の魔法陣が広がり、

 祝福の光が学園全体を包み込む。


 歓声が上がる。


 だが、俺は笑えなかった。


 魔力の流れが、明らかにおかしい。


 膨れ上がっている。

 圧縮され、逃げ場を失い、限界に近づいている。


 ――このままでは。


「……来る」


 原作通りなら、ここで“事件”が起きる。


 祝福を受けた者の一人が、耐えきれずに暴走する。


 世界は、帳尻を合わせに来る。


 案の定だった。


「う、あ……!」


 壇下で、悲鳴が上がる。


 祝福を受けた生徒の一人が、膝をついた。

 次の瞬間、魔力が噴き出す。


 会場が騒然となる。


「結界を!」


「誰か、止めろ!」


 混乱の中で、真っ先に動いたのは――


「下がってください!」


 リリアだった。


 迷いはない。

 自分がやるべきだと、信じ切っている。


 勇者も、彼女を守るように前に出る。


 完璧な構図だ。


 原作では、ここで彼女が救い、

 すべてが美談になる。


 だが。


「――やめろ」


 俺は、声を張り上げていた。


 ざわめきが、一瞬だけ止まる。


「それ以上、癒すな」


 全員の視線が、俺に向く。


「まだ分からないのか」


 怒りと困惑が混じった声が飛ぶ。


「こんな時に何を――」


「今、癒したら、次はもっと酷いことが起きる」


 誰も、聞こうとしない。


 それでも、俺は続けた。


「これは偶然じゃない。祝福が原因だ」


 完全な沈黙。


 そして。


「……下がってください」


 リリアの声だった。


 静かで、はっきりとした声。


「私は、聖女です」


 その言葉で、すべてが決まった。


 彼女は俺を見ない。

 俺の言葉を、受け取らない。


 使命を選んだ。


 癒しの光が、再び広がる。


 暴走は収まり、

 生徒は助かり、

 会場は安堵に包まれる。


 拍手が起きる。


 称賛が降り注ぐ。


 勇者が、リリアの隣に立つ。


 完璧な救済。


 だが。


 俺には分かる。


 今の一度で、

 歪みは確実に積み上がった。


 取り返しのつかない量に。


 式典は成功として終わった。


 俺は、完全に場違いな存在になっていた。


 去り際、背後から声がする。


「……これで、満足ですか」


 振り返ると、リリアが立っていた。


 少し、疲れた顔で。


「人を救うことが、そんなに悪いことですか」


 俺は、答えなかった。


 答えられなかった。


 正確には――

 答える意味がなかった。


「世界が壊れる」


 それだけを、低く告げる。


 リリアは、悲しそうに目を伏せた。


「それでも、私は救います」


 やはり、同じ言葉。


 同じ結論。


 俺は、踵を返した。


 もう、迷いはない。


 この日を境に、俺は完全に切り捨てられる。


 だが、それでいい。


 救済の日は、終わった。


 そして――

 本当の破滅へのカウントダウンが、始まった。


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