第48話 見つかる兆し
目を開けた瞬間、身体が重かった。
レオナール・フォン・グラントヴァルは、天井を見つめたまま、しばらく動けずにいた。
胸の奥に沈んだ重みが、はっきりと増している。
昨日と同じ。
いや、昨日よりも一段、深い。
呼吸を整え、ゆっくりと上体を起こす。
視界が、わずかに揺れる。
「……問題ない」
小さく呟いて、自分に言い聞かせる。
動ける。
それなら、登校する。
制服に袖を通すだけで、指先が少し震えた。
だが、止まらない。
教室に入ると、エリシアがすぐに気づいた。
視線が、一瞬だけ、強くなる。
「……大丈夫?」
声は、低い。
「平気だ」
短い返答。
それ以上、言葉は続かない。
だが、エリシアは理解している。
歩き方。
呼吸の間。
魔力の“密度”。
昨日とは、違う。
そして昨夜、北西の異変が“自然収束”した。
偶然とは、思えない。
エリシアは、何も言わない。
言えば、取り決めを破る。
だが、胸の奥で、不安が膨らんでいく。
午前中、学園が騒がしくなった。
「教員が北西に向かったらしい」
「調査だって」
噂は、すぐに広がる。
レオナールは、席に座ったまま、静かに聞いていた。
動揺はしない。
すでに、覚悟している。
昼過ぎ。
教員の一団が戻ってきた。
廊下の端で、低い声のやり取り。
「痕跡が、妙に綺麗だ」
「自然収束なら、もっと乱れる」
「人為的な介入があった可能性が高いな」
断片的な言葉。
だが、十分だった。
“誰かがやった”。
それだけが、共有される。
犯人は分からない。
だが、存在は確定した。
学園内の空気が、変わる。
管理対象生徒の再確認。
最近、体調を崩している者。
魔力変動の多い者。
名前が読み上げられていく。
レオナールの名は、まだ出ない。
だが、近づいている。
エリシアは、机の下で拳を握りしめていた。
放課後、人気のない回廊。
二人きりになる。
エリシアは、何も聞かない。
レオナールも、何も言わない。
それでも、分かっている。
やった。
見つかり始めている。
沈黙が、重い。
先に口を開いたのは、レオナールだった。
「……続ける」
エリシアは、顔を上げる。
否定しない。
止めない。
ただ、言う。
「……戻って」
「戻る」
それだけの会話。
それで十分だった。
夜。
部屋で、レオナールはベッドに腰を下ろす。
胸の奥の重みが、静かに主張している。
続ければ、必ずバレる。
それでも、引く気はない。
守られるだけでは、守れない。
もう、
隠すだけでは足りない段階に入っていた。




