表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/62

第47話 越境

 胸の奥が、はっきりと悲鳴を上げた。


 これまでの“違和感”とは違う。

 圧縮された何かが、内側から膨れ上がる感覚。


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、思わず机に手をついた。


「……加速してる」


 遠隔観測用に調整した結界札が、淡く光る。


 視界の奥に、歪んだ像。


 北西。

 森と街道の境。


 内部圧、急上昇。


 溜めの段階は終わった。


 ――噴き出す直前。


 同時に、学園の監視盤が遅れて色を変える。


「結界数値、上昇傾向!」


「まだ警告域には入っていない!」


 廊下がざわつく。


 教員たちが集まり、判断を交わす。


「封鎖するか?」


「待て。規模を確認してからだ」


 迷いが生じている。


 規模は大きくない。

 だが、質が悪い。


 英雄は、いない。


 胸の奥の重みが、はっきりと教えてくる。


 他の方法では、止まらない。


 力で叩けば、爆発する。

 封印すれば、溜め込む。


 沈められるのは――

 自分だけだ。


「……条件③、成立」


 小さく呟く。


 レオナールは、廊下へ出た。


 エリシアは、すでに気づいていたようで、待っていた。


「来たの?」


「来た」


 短いやり取り。


「……私、止めない」


 声は、震えていない。


「止めたら、また同じになる」


 レオナールは、頷いた。


「必ず戻る」


「信じる」


 それだけで、十分だった。


 レオナールは、踵を返す。


 向かうのは、正規ルートではない。


 管理対象生徒用の通路。

 物資搬入用の細い裏道。


 以前から、頭に入れていた。


 巡回の隙。

 死角。


 結界札を一枚、指で弾く。


 視認阻害。


 誰にも気づかれず、境界を越える。


 学園の外気が、肌に触れた。


 ――越えた。


 戻る道は、まだある。

 だが、確実に細くなった。


 森に入る。


 歪みは、はっきりと見える。


 黒い“溜まり”。


 音はない。

 だが、圧がある。


「間に合う」


 そう判断する。


 魔力を流す。


 今までのように抑えない。

 叩かない。


 沈める。


 歪みの流れを、自分の内側へ引き寄せる。


「……っ」


 胸の奥が、焼ける。


 固定した歪みが、暴れる。


 だが、逃がさない。


 世界側の受け皿になるのではない。

 自分が受け皿になる。


 時間感覚が歪む。


 数秒か、数分か。


 やがて。


 黒い溜まりが、薄れる。


 圧が、消える。


 異変は、沈静化した。


 レオナールは、その場に膝をついた。


 呼吸が荒い。


 視界が、揺れる。


 だが、意識は保っている。


「……成功、だな」


 自嘲にもならない声。


 立ち上がる。


 足が、少しもつれる。


 それでも、戻らなければならない。


 学園へ戻る道。


 胸の奥の重みは、以前より確実に増している。


 代償は、蓄積される。


 だが、後悔はない。


 学園に戻った時、

 監視盤は“自然収束”を示していた。


 誰も、理由を知らない。


 それでいい。


 レオナールは、静かに自室へ戻る。


 ベッドに腰を下ろし、深く息を吐く。


 身体が、重い。


 明確に、前より悪い。


 それでも。


 彼は越えた。


 そして。


 戻る道は、確実に細くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ