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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第43話 踏み込む者たち

 呼び出しは、あまりにも穏やかだった。


 授業の終わり際、教員が何気ない口調で告げる。


「レオナール、少し時間をいいか。

 最近の体調について、確認したい」


 質問でも、命令でもない。

 だが、断る前提のない言い方だった。


 周囲の視線が、一瞬だけ集まる。


 すぐに逸らされる。

 だが、消えない。


「分かりました」


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、短く答えた。


 席を立とうとした瞬間、隣から声がかかる。


「私も行く」


 エリシアだった。


 理由は言わない。

 説明もしない。


 それでも、教員は何も言わずに頷いた。


「構わない」


 すでに、“見られている”空気があった。


 案内されたのは、保健区画に隣接する小さな観測室だった。


 白を基調とした簡素な部屋。

 魔力測定用の結晶盤と、いくつかの器具。


 威圧感はない。

 だが、軽くもない。


「最近、訓練や実習で反応が遅れる場面があると聞いている」


 教員は淡々と告げる。


「大事に至ってはいない。

 だからこそ、今のうちに確認しておきたい」


 建前は、健康管理。

 本音は、観測だ。


 レオナールは椅子に腰を下ろす。


 拒否権はない。

 あっても、使わない。


 最初は魔力循環の測定だった。


 結晶盤に手を置き、魔力を流す。


 数値が走る。


 教員の眉が、わずかに動いた。


「……通常値から外れているな」


 エリシアが、無言で様子を見る。


 次は反応速度の確認。


 簡単な指示に、どれだけ早く対応できるか。


 結果は、平均よりわずかに遅い。


 致命的ではない。

 だが、以前のレオナールを知る者からすれば、違和感のある差だ。


 最後に、基礎魔法の発動。


 成功する。

 失敗はしない。


 だが、発動の瞬間、胸の奥で重みが跳ねる。


 レオナールは表情を変えない。


 教員は、しばらく沈黙した後、結論を出す。


「負荷はある。

 だが、性質が分からない」


 続けて、静かに。


「既存の分類に当てはまらない。

 病気とも、単純な魔力障害とも言い切れない」


 つまり。


 異常はあるが、説明できない。


「現時点で危険とは断定しない。

 だが、放置もしない」


 それが、学園の選択だった。


「当面の間、無理な実習は免除。

 単独行動は控えること。

 定期的に観測を行う」


 管理の開始。


 レオナールは、静かに頷いた。


 自由度が、下がる。


 だが、予想していた。


 観測室を出た後、廊下でエリシアが口を開く。


「一人で行動しないで」


 命令ではない。

 だが、強い。


 レオナールは、反射的に言い返しかけて、やめた。


「……分かった」


 取り決めを、守る。


 それが今の選択だ。


 勇者は、少し離れた場所で教員と話していた。


「大丈夫なんですよね?」


「大きな問題はない」


 それだけのやり取り。


 彼は、深刻さを理解していない。


 理解させる材料も、ない。


 それでいい。


 夕方、学園内で小さな噂が流れ始める。


 北側街道付近で、また結界数値の揺れ。


 小規模。

 報告止まり。


 以前なら、レオナールは動いていた。


 今は、動けない。


 管理下にある。


 エリシアが、隣に立つ。


「……行かないで」


 言葉は短い。


 レオナールは、噂の方向を一度だけ見て、視線を戻した。


「分かってる」


 守られるということは、

 選べなくなるということでもあった。


 影は、確かにそこにある。


 だが、彼はまだ、踏み出せない。


 踏み出せないまま、

 時間だけが進んでいく。


 それが、次の地獄の始まりだった。

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