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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第42話 問いは避けられない

 放課後の空は、夕暮れに差しかかっていた。


 学園の喧騒は少しずつ薄れ、

 訓練場からの掛け声も、遠くに溶けていく。


 レオナール・フォン・グラントヴァルが回廊を抜けようとしたとき、

 背後から、落ち着いた声がかかった。


「レオナール」


 振り返ると、エリシアが立っている。


 感情を抑えた表情。

 だが、迷いのない視線。


「少し、時間をもらえる?」


 拒む理由は、なかった。


 二人は、人目の少ない中庭の端へ移動する。

 石畳に落ちる夕陽が、長い影を作っていた。


 しばらく、沈黙。


 その沈黙は、重くない。

 だが、逃げ場もない。


「今日は、ありがとう」


 最初に口を開いたのは、エリシアだった。


「訓練場の後、無理に続けなかったでしょう。

 ……それは、良い判断だったと思う」


 褒める口調でも、責める口調でもない。


 事実の確認。


 レオナールは、静かに頷いた。


「本題に入るね」


 エリシアは、息を整える。


「最近のあなたのこと。

 私は、ずっと見てきた」


 感情を挟まず、順序立てて言葉を並べる。


「反応が遅れる時がある。

 判断が、以前より慎重すぎる時がある。

 魔力を使うたびに、微妙な違和感が残る」


 どれも、事実だった。


「それでも、致命的なミスはしない。

 無理もしない。

 だから、周囲は“変化”として受け取らない」


 ここで、視線が真っ直ぐに向けられる。


「でも私は、違う」


 静かな断定。


「何かを、抱えているでしょう」


 追及ではない。

 問い詰めでもない。


 確認だ。


 レオナールは、一瞬だけ言葉を探した。


 いつもなら、ここで引き返せた。

 体調不良。

 疲労。

 魔力循環の乱れ。


 だが、今回は違う。


 エリシアは、すでにそこを越えている。


「嘘だとは思っていない」


 彼女は続ける。


「あなたが言ってきたことは、全部、筋が通っている。

 だからこそ……足りない」


 沈黙が落ちる。


 レオナールは、逃げられないことを理解した。


 完全に否定することも、

 完全に明かすことも、できない。


 ――なら、選ぶしかない。


「……俺の中に」


 ゆっくりと、言葉を切り出す。


「外に出せない“負荷”がある」


 エリシアの目が、わずかに見開かれる。


 だが、口を挟まない。


「怪我や病気じゃない。

 治療の対象でもない」


 事実だ。

 嘘ではない。


「外に逃がせない性質のものだ。

 だから、動き方を変える必要があった」


 ここで、一拍置く。


「……誰にも話せなかった理由も、そこにある」


 世界の構造。

 歪み。

 結界。


 核心には、触れない。


 だが、隠す理由だけは、初めて言葉にした。


 エリシアは、しばらく黙っていた。


 理解しているとは言えない。

 だが、受け取っている。


「それは……」


 言葉を選びながら、続ける。


「あなたが一人で背負う必要があるもの?」


 問いは、鋭い。


 レオナールは、首を横に振った。


「必要がある、というより……

 そうしないと、他が壊れる」


 それ以上は、言えない。


 エリシアは、深く息を吸った。


「全部は、分からない」


 正直な言葉。


「でも、無茶をしているわけじゃないことは分かる。

 それと……」


 視線が、少し柔らぐ。


「一人で抱え続けるつもりだったことも」


 ここで、関係が変わる。


 対等だった距離が、

 わずかに傾く。


「約束して」


 エリシアは、静かに言った。


「限界に近づいたら、止める。

 私が止める」


 命令ではない。

 懇願でもない。


 取り決めだ。


「これ以上、踏み込まない。

 理由も聞かない」


 代わりに。


「あなたを一人にはしない」


 レオナールは、その言葉を受け止める。


 守られる立場になること。

 監視されること。


 それは、弱さではない。


 構造が変わっただけだ。


「……分かった」


 短く、答える。


 それで十分だった。


 二人の間に、新しい線が引かれる。


 近づいたわけではない。

 だが、離れてもいない。


 嘘は、減った。

 だが、秘密は残る。


 それでも、

 もう独りではない。


 夕陽が沈み、

 中庭に影が落ちる。


 問いは、避けられなかった。


 答えも、完全ではない。


 それでも、

 関係は定義された。


 嘘は減った。

 だが――

 秘密は、まだ重いままだった。

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