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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第38話 耐えられる限界

 違和感は、数値では測れなかった。


 結界監視点の報告は安定を示している。

 波形も平坦。

 警告閾値にも触れていない。


 それでも、レオナール・フォン・グラントヴァルは足を止めた。


 風の流れが、遅い。

 空気の重さが、一定ではない。


「……溜めてる」


 独り言は、低く短い。


 第37話で確認した地点。

 同じ場所、同じ時刻。


 だが、質が違う。


 暴れる前の兆候ではない。

 噴き出す直前でもない。


 ――蓄積。


 流れが内側に向かって折り畳まれている。

 表に出ない代わりに、奥へ奥へと沈んでいく。


 数値は嘘をつかない。

 だが、数値が拾えない嘘もある。


 レオナールは、慎重に結界の縁へ近づいた。


 魔力を流す量を、極限まで絞る。

 確認のための最小限。


 触れた瞬間、

 身体の奥が、はっきりと反応した。


「……っ」


 声は出さない。


 胸の内側を、鈍い力が押し返す。

 痛みではない。

 拒絶でもない。


 負荷だ。


 魔力を通せば通すほど、

 自分の中の何かが削られていく感覚。


 呼吸を整え、いったん距離を取る。


 立てる。

 歩ける。


 外から見れば、何も変わらない。


 教員への報告は、簡潔に済ませた。


「大きな変化はありません。

 現状、様子見で問題ないかと」


 嘘ではない。

 今すぐ噴き出す兆候はない。


 だが、全体像は伏せている。


 報告を終えた瞬間、

 身体が、少しだけ重くなった。


 気づかないふりをして、

 そのまま現地へ戻る。


 単独対応は、いつの間にか前提になっていた。


 誰も疑問を持たない。

 誰も止めない。


 それが、構造だ。


 再度、中心へ踏み込む。


 今回は、ほんの一歩深く。


 魔力の流れを、慎重に捉える。


 瞬間――

 視界が、わずかに歪んだ。


 音が遠のき、

 耳鳴りが走る。


 反射的に膝を折りかけ、

 寸前で踏みとどまる。


「……まだ、いける」


 自分に言い聞かせる。


 だが、理解してしまった。


 回復していない。


 休めば戻る。

 以前は、そうだった。


 今は違う。


 休めば、持ち直すだけだ。

 元には戻らない。


「削れてるのは……力じゃない」


 ゆっくりと、言葉にする。


「余白だ」


 余裕。

 判断の遊び。

 失敗しても立て直せる幅。


 それが、確実に減っている。


 選択肢を、頭の中に並べる。


 勇者を呼ぶ。

 ――却下。


 英雄の力は、ここでは爆薬だ。

 引き金を引くことになる。


 教員に全てを報告する。

 ――却下。


 学園が動けば、過剰対応になる。

 封鎖、調査、魔力集中。

 結果として、同じ場所に圧がかかる。


 自分一人で止める。

 ――唯一、現実的。


 だが、それは今までのやり方ではない。


 もう、耐えるだけでは足りない。


 中心に、さらに一歩踏み込む。


 その瞬間、

 強烈な反動が返ってきた。


 視界が白くなり、

 意識が遠のく。


 時間が、伸びる。


 このまま倒れれば、

 誰かが来る。


 発覚する。

 構造が崩れる。


 歯を食いしばり、

 無理やり意識を引き戻す。


 立っている。

 まだ。


「……次は」


 息を整えながら、理解する。


「耐えられるかどうかじゃない」


 ここから先は、

 やり方を変えなければ死ぬ。


 同じ位置には戻れない。

 同じ判断も、同じ速度も、同じ余白もない。


 それでも、撤退ではない。


 誰かに投げる選択でもない。


 必要なのは、

 もっと深く沈むことだ。


 表から見えない位置へ。

 より内側へ。


 自分を使うのではなく、

 自分を組み込む。


 レオナールは、ゆっくりと立ち上がる。


 足取りは、確かだ。

 表情も、変わらない。


 誰も、異常に気づかない。


 だが、彼自身は分かっていた。


 もう、同じ場所には戻れない。


 それでも、前へ進む。


 彼はまだ立っている。


 だが――

 余裕は、もうない。


 次に踏み出す一歩は、

 引き返せない。


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