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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第36話 選ばなかった言葉

 回廊を離れたあとも、エリシアの胸には、はっきりしない感覚が残っていた。


 問いは、確かに投げた。

 だが、最後まで踏み込まなかった。


 それが正しい判断だったのかどうか。

 今も、分からない。


 夕暮れの空気はひんやりとしていて、

 学園の喧騒も、少しずつ遠ざかっていく。


 彼女は足を止め、深く息を吸った。


 レオナールの答えは、論理的だった。

 無理をした。

 代償が残った。


 それだけ聞けば、納得できる。

 戦いの後には、必ず何かが残る。


 けれど――

 どこか、引っかかる。


 言葉は、間違っていない。

 だが、足りていない。


 その「足りなさ」を、

 自分が追及しなかったことも、分かっている。


 聞けば、何かが壊れる気がした。

 だから、聞かなかった。


 それが、エリシアの選択だった。


 翌日。


 学園は、完全に平常運転へ戻っていた。


 討伐後の後処理が進み、

 勇者を中心とした報告と評価が続く。


「今回の判断は的確だったな」


「被害を最小限に抑えられた」


 教師たちの声は、明るい。


 勇者は、その場にいても、どこか控えめだった。


「皆のおかげです」


 そう言って、視線を下げる。


 慢心はない。

 自分の役割を理解している。


 エリシアは、その姿を見ながら、

 昨日の会話を思い出していた。


 英雄は前を向く。

 それが、正しい。


 だが、

 前を向き続けることで、

 見えなくなるものもある。


 そのことを、

 彼はまだ知らない。


 休み時間。


 廊下の一角で、生徒たちが小声で話している。


「最近、レオナールどうしてる?」


「見かけるけど、あんまり話さないな」


「有能なのは分かるけど……近寄りがたいっていうか」


 声は、噂話の域を出ない。

 悪意もない。


 むしろ、評価は高い。


 頼れる。

 仕事は確実。

 判断も早い。


 ただ、距離がある。


 エリシアは、その会話を聞きながら、

 胸の奥に違和感を覚えた。


 それは、どこか違う。


 彼は、冷たいわけじゃない。

 人を見下すこともしない。


 ただ――

 踏み込ませないだけだ。


 その理由を、

 自分は、知っているはずだった。


 だが、知らない。


 だから、否定もできない。


 午後。


 訓練場の端で、エリシアはレオナールの姿を見つけた。


 一人で、簡単な動作確認をしている。


 無駄のない動き。

 いつも通りのように見える。


 それでも、

 どこか慎重すぎる。


 以前なら、もっと踏み込んでいたはずの場面で、

 一歩、距離を取っている。


 声をかけようとして――

 やめた。


 昨日、聞かなかった。

 今日も、聞かない。


 その積み重ねが、

 距離を固定していく。


 エリシアは、それを自覚していた。


 だからこそ、

 簡単に踏み込めない。


 夕方。


 教員室の前を通りかかると、

 中から名前が聞こえた。


「グラントヴァル家の子だが……最近、少し様子が違うな」


「能力は申し分ない。

 だが、単独行動が増えている」


「問題はないが、念のため様子を見よう」


 記録される評価。

 管理される視線。


 誰かが悪いわけじゃない。

 それでも、

 レオナールは、少しずつ“距離を置かれる存在”になりつつあった。


 エリシアは、立ち止まりかけて、歩き出す。


 自分が口を挟めば、

 何かが変わるかもしれない。


 だが、

 何を言えばいいのか分からない。


 知らないことは、

 守れない。


 その現実が、

 静かに胸に刺さる。


 夜。


 学園の外縁で、小さな異変の報告が上がる。


 大事ではない。

 すぐに対処できる程度。


 だが、

 「誰が動くべきか」という空気が生まれる。


 勇者は、表の調整に入っている。

 討伐後の手続きが、まだ残っている。


 自然と、

 別の名前が挙がる。


「……レオナールなら、気づいてるかもしれない」


 その一言に、

 誰も反論しなかった。


 信頼だ。

 だが同時に、

 便利さでもある。


 エリシアは、その流れを感じ取り、

 胸の奥がざわついた。


 選ばなかった言葉は、

 消えたのではない。


 形を変えて、

 周囲に広がっている。


 そして、その中心に、

 一人の影が立っている。


 語られなかった理由は、

 まだ誰にも届いていない。


 だが、

 沈黙は、すでに意味を持ち始めていた。


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