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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第35話 問いが向けられる

 放課後の学園は、昼間とは別の顔をしていた。


 訓練場から戻る生徒の足音が遠ざかり、

 廊下には静けさが戻りつつある。


 レオナール・フォン・グラントヴァルが中庭を抜けようとしたとき、

 背後から、控えめな声がかかった。


「レオナール」


 振り返ると、エリシアが立っていた。


 表情は穏やかだ。

 だが、どこか決意を帯びている。


「少し、時間いい?」


「……構わない」


 断る理由は、最初からなかった。


 二人は、人目の少ない回廊へ移動する。

 窓から差し込む夕暮れの光が、床に細長い影を落としていた。


 しばらく、言葉が続かない。


 沈黙は重いが、不快ではない。

 それでも、逃げ場がないことだけは、はっきりしていた。


「ね」


 エリシアが、ゆっくりと口を開く。


「最近……何か、あった?」


 責める口調ではない。

 疑う声色でもない。


 ただ、確認するような問い。


 レオナールは、一瞬だけ視線を落とす。


「……どうして、そう思った?」


「理由があるわけじゃない」


 エリシアは、正直に答えた。


「でも、少し遅れるし、

 考える時間が増えたみたいで」


 言葉を選びながら、続ける。


「前のあなたは、

 もっと迷いが少なかった」


 核心に触れないようにしながら、

 それでも、確かに触れている。


 レオナールは、答えを考える。


 正直に話すことはできる。

 だが、それは――

 世界の裏側を、彼女に背負わせるということだ。


 それは、選べない。


「無理をした」


 口から出た言葉は、事実だった。


「少し……想定以上だった」


 嘘ではない。

 だが、すべてでもない。


 エリシアは、じっと彼を見つめる。


「怪我?」


「そういうものじゃない」


「なら……代償?」


 一瞬、空気が張り詰める。


 レオナールは、視線を逸らさずに答えた。


「残った、というだけだ」


 それ以上は語らない。


 何を。

 なぜ。


 そこには、踏み込ませない。


 論理としては、成立している。

 戦いには代償がある。

 無理をすれば、後が残る。


 理解はできる。


 だが――

 納得は、できない。


 エリシアの表情が、わずかに曇る。


「……それで、今も?」


「大きな問題じゃない」


 言い切る。


 実際、今すぐ倒れるわけではない。

 行動はできる。


 だから、この言葉も嘘ではない。


 エリシアは、しばらく黙っていた。


 問い詰めれば、

 もう一歩踏み込めば、

 何かが壊れる気がしたのだろう。


「分かった」


 やがて、そう言った。


「無理はしないで」


 それだけ。


 引いたのは、信頼ゆえだ。


 それが、かえって痛かった。


 会話は、そこで終わる。


 以前なら、自然と別の話題に移った。

 笑って、軽口を叩いた。


 だが今日は、違う。


 二人の間に、

 言葉にならない距離が残った。


 エリシアは、一礼して去っていく。


 その背中を見送りながら、

 レオナールは、胸の奥に重さを感じていた。


 ――守ったのは、世界だ。


 ――失ったのは、距離だ。


 その事実が、静かに積み重なる。


 一人になった回廊で、

 レオナールは壁に背を預けた。


 今回の説明は、限界だった。


 嘘ではない。

 だが、削った真実だ。


 一度削ったものは、

 元の形では戻らない。


 次に同じ問いを向けられたら――

 もう、同じ答えは使えない。


「……次は」


 呟きは、誰にも届かない。


「もっと、大きな選択になる」


 夕暮れの光が、完全に消える。


 影が、回廊を満たしていく。


 一度削った真実は、

 二度と元の形では語れない。


 それを、レオナールは誰よりも理解していた。


 だからこそ、

 今日もまた、沈黙を選ぶ。


 悪役として。

 そして、一人の人間として。


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