表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/53

第34話 隠しきれない違和感

 朝の学園は、いつもと同じ音で始まった。


 鐘が鳴り、廊下に足音が満ちていく。

 祝宴の余韻はすでに薄れ、日常が戻ってきている。


 変わらない世界。

 変わらないはずの一日。


 ――ただ一つを除いて。


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、登校路の途中で呼び止められて、初めて自分の歩みが遅れていたことに気づいた。


「レオナール?」


 振り返ると、同級生が怪訝そうな顔で立っている。


「もう授業始まるぞ」


「ああ……悪い」


 言ってから、ほんのわずかな間が空いたことに、自分で気づく。


 返事が遅れた。

 ほんの一拍。


 それだけのことなのに、胸の奥がざわついた。


 教室に入ると、授業はすでに始まっている。

 視線が、ちらりとこちらを向く。


 責める色はない。

 だが、見られたという感覚だけが残る。


 席に着き、ノートを開く。


 教師の声は、耳に入っている。

 内容も理解できる。


 それでも、頭の中で一度噛み砕いてからでないと、

 言葉が定着しない。


 以前なら、もっと自然だった。


「……」


 誰にも悟られないよう、姿勢を正す。


 昼前の演習は、簡単な判断を要するものだった。


 複数の魔力反応を感知し、

 優先順位をつけて処理する。


 難易度は低い。

 時間制限も緩い。


 レオナールは、反応を拾う。


 だが――

 一瞬、迷った。


 どちらが先か。

 ほんの刹那。


 結果として、判断は間違っていない。

 だが、遅い。


 教員の視線が、ほんの一瞬こちらをかすめた。


 何も言われない。

 指摘もない。


 それでも、胸の内側に残る。


 ――らしくない。


 その評価が、言葉になる前に、確かに存在していた。


 演習が終わり、場が解散しても、

 その感覚は消えなかった。


 午後、廊下を歩いていると、背後から声がかかる。


「レオナール」


 振り向くと、エリシアが立っていた。


 表情は穏やかだ。

 だが、視線は真っ直ぐこちらを見ている。


「ちょっと、いい?」


「ああ」


 並んで歩き出す。


 しばらく、沈黙が続いた。


 エリシアは、言葉を選んでいるようだった。


「……最近、少し様子が違う気がして」


 核心を突かない言い方。

 断定もしない。


 ただの感覚として、違和感を差し出してくる。


「疲れてる?」


 一瞬、考える。


 正直に言えば、

 説明はできない。


 真実を言えば、

 何もかもが変わる。


 レオナールは、ほとんど反射的に答えていた。


「少し、な」


 体調不良。

 寝不足。


 理由としては、無難だ。


「……無理してない?」


「大丈夫だ」


 言葉は、もっともらしい。

 表情も崩していない。


 だが、エリシアの目は、納得しきれていない。


「なら、いいんだけど」


 それ以上、踏み込んではこない。


 だが――

 引き下がったわけでもない。


 視線が、しばらくこちらに留まっていた。


 別れた後、レオナールは人気のない回廊に足を向ける。


 壁に手をつき、深く息を吐く。


「……」


 嘘をついた。


 必要だからだ。

 仕方がない。


 そう、頭では理解している。


 それでも、胸の奥が重い。


 悪役は、嫌われる役割だ。

 疑われる役割だ。


 だが――

 嘘をつく役割じゃない。


 それが、どこかで引っかかっていた。


 自分は、真実を隠してきた。

 だが、偽りを語ることは、なるべく避けてきた。


 今回は違う。


 守るために、嘘を選んだ。


 その選択が、正しいのかどうか。

 答えは、まだ出ない。


 廊下の向こうで、誰かの話し声が聞こえる。


「最近、レオナールどうしたんだろうな」


「別に変じゃないだろ?」


「……そうか?」


 声は、小さい。

 だが、確かに耳に届いた。


 違和感は、もう自分だけのものではない。


 レオナールは、背筋を伸ばす。


 今は、まだ隠せている。

 誤魔化せている。


 だが、隠した瞬間から、

 真実は、より大きな存在になっていく。


 それを、誰よりも理解していた。


 だからこそ――

 今日も、黙って歩く。


 影のままで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ