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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第31話 光が届かない場所

 勝利は、もうすぐだと伝えられていた。


 北方街道で発生した魔力暴走は制圧段階に入り、

 勇者を中心とした討伐隊は、敵の核を追い詰めている。


 伝達魔法越しに届く声は、明るい。


「あと一押しだ」

「被害は最小限に抑えられている」


 学園の中枢では、安堵の空気が広がっていた。


 結界は安定している。

 追加の異変も観測されていない。


 ――終わった。

 多くの者が、そう思い始めていた。


 一方で。


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、その報告を遠くで聞きながら、

 まったく別の場所に立っていた。


 光の戦場から外れた地点。

 地図には明確に示されない、魔力の“裏道”。


 空気が、重い。


 魔力が濁り、

 因果が絡み合い、

 結界の論理が歪められている。


「……ここか」


 レオナールは、静かに息を吐いた。


 英雄が戦っている場所とは、完全に別軸。

 だが、確実につながっている。


 表で力が解放されるたび、

 こちらの歪みが増幅しているのを感じる。


 ――英雄が正しい。

 ――だからこそ、危険だ。


 ここは、正面から踏み込めない。


 力で押せば、

 因果が逆流し、結界全体が破綻する。


 勇者が来れば、

 この歪みは“敵”として認識され、

 世界が耐えきれなくなる。


「……光が、届かない場所」


 それは逃げ場ではない。

 放置された残骸でもない。


 世界が成立するために、

 誰かが必ず背負わなければならない場所だ。


 レオナールは、歪みの中心を見据える。


 複数の選択肢が、頭の中に浮かぶ。


 破壊すれば、即座に暴走する。

 封印すれば、時間稼ぎにしかならない。

 維持しつつ流せば、別の場所が壊れる。


 ――どれも、正解ではない。


 どれを選んでも、

 英雄の勝利が“嘘”になる可能性がある。


「……地獄だな」


 小さく、独り言が漏れる。


 誰にも聞かれない。

 誰にも助けられない。


 勇者は前に出ている。

 エリシアは支えている。


 観測者は、干渉しない。


 自分だけが、ここに残されている。


 ――選ばれたのではない。

 ――残されたのだ。


 それでも、選ぶしかない。


 歪みの鼓動が強まる。

 時間が、ない。


 レオナールは、最後の選択肢を思い描く。


 自分を媒介にする。


 歪みを直接引き受け、

 因果を自身の魔力回路に通し、

 世界側へ流さずに消化する。


 成功すれば、何事もなかったかのように終わる。

 失敗すれば――存在が消える。


「……合理的だ」


 自己犠牲ではない。

 感情的な選択でもない。


 成功確率は低い。

 だが、他よりは“マシ”だ。


 英雄の勝利を無意味にしない。

 世界を壊さない。


 それだけで、十分だった。


 レオナールは、一歩踏み出す。


 歪みが反応し、

 魔力が牙を剥く。


 激痛が走る。


 だが、歯を食いしばり、耐える。


「……来い」


 自分の中へ、歪みを引き込む。


 魔力回路が軋み、

 視界が白くなる。


 意識が遠のきかける中で、

 表の戦場の気配を感じる。


 勇者が、核を貫いた。


 歓声が上がる。

 勝利が、確定する。


 同時に――

 歪みが、消えた。


 因果が、収束する。


 レオナールは、その場に膝をついた。


 呼吸が、荒い。

 身体が、重い。


 だが、世界は――壊れていない。


 表では、英雄の凱旋が始まっている。


 称賛。

 安堵。

 祝福。


 誰も、裏で起きたことを知らない。


 知らなくていい。

 知る必要もない。


 それが、悪役の役割だ。


 レオナールは、ゆっくりと立ち上がる。


 視界の端が、まだ揺れている。


「……終わったな」


 誰に向けるでもない言葉。


 光が届かない場所で、

 世界は確かに救われた。


 その事実を知る者は、

 ただ一人だった。


 そして――

 その代償は、静かに身体の奥に沈んでいく。


 次に表へ現れる時、

 それが何を意味するのか。


 まだ、誰も知らない。


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