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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第27話 観測者は敵か

 異変は、あからさまな形で残されていた。


 学園外縁、結界のさらに外。

 通常なら誰も気に留めない、古い石柱の根元。


 そこに――

 隠す気のない魔力痕が刻まれていた。


 攻撃ではない。

 侵入でもない。


 ただ、意図的に“残された”痕跡。


 学園の結界構造を知っていなければ、

 この位置は選べない。


 そして――

 レオナール・フォン・グラントヴァルの感覚に、

 はっきりと引っかかる精度だった。


「……見せてきた、か」


 彼はその場に膝をつき、

 魔力の残滓を指先でなぞる。


 雑ではない。

 だが、完璧でもない。


 こちらが“気づく”前提で残されている。


 つまり、これは挑発ではなく――

 合図だ。


 ――ここにいる。

 ――見ている。

 ――隠れる気はない。


 その意思が、はっきりと伝わってくる。


 レオナールは、ゆっくりと立ち上がる。


 隠密を強化する。

 痕跡を消す。

 迎撃の準備を整える。


 頭の中に、即座に選択肢が浮かぶ。


 だが、そのすべてが――

 決定打にならないと分かってしまった。


「この相手……

 俺より、一段上から見ている」


 魔力の扱い。

 結界への理解。

 そして、距離感。


 勇者でも、教員でも、

 王国の正規組織でもない。


 だが、確実に“知っている側”の人間だ。


 同じ頃。


 学園から少し離れた高台で、

 観測者は夜風を受けながら、結界を眺めていた。


 光は強い。

 構造も堅牢。


 英雄を中心に据えた、典型的な防衛体系。


「……だが、それだけじゃ足りない」


 独白は、誰にも聞かれない。


 英雄は前に出る。

 世界はそれを前提に回る。


 だが――

 前に出る者がいる世界ほど、

 裏側が脆くなる。


 今回の異変は、その歪みを突いたものだった。


 英雄が触れれば、暴走する。

 正規の処理をすれば、被害が広がる。


 それを――

 裏から、無名の誰かが処理した。


「称賛を求めない。

 記録にも残らない。

 それでも世界を壊さなかった」


 観測者は、わずかに口角を上げる。


「……珍しいな」


 敵意はない。

 だが、興味はある。


 利用価値か。

 排除対象か。


 まだ、決めていない。


 一方、学園内では、

 何事もなかったかのように夜が更けていく。


 勇者は訓練を終え、

 エリシアは寮に戻り、

 生徒たちは日常に戻っている。


 ――だからこそ、

 巻き込めない。


 レオナールは、痕跡から距離を取りながら思考を巡らせる。


 このまま放置すれば、

 観測者はさらに踏み込む。


 学園の構造。

 結界の中枢。

 そして、英雄。


 自分が動かなければ、

 いずれ“表”が揺れる。


 だが、先に動けば――

 正体に近づかれる。


「……逃げ場は、ないな」


 だからこそ、

 選択は一つしかない。


 学園を守る。


 そのために、

 自分が前に出る。


 それは自己犠牲ではない。

 最も合理的な判断だ。


 観測者の関心を、

 自分一人に集中させる。


 その覚悟を固めた瞬間だった。


 結界の縁に、

 新たな魔力痕が現れる。


 今度は、文字だった。


 簡易的な魔力構文。

 だが、意図は明確。


『英雄ではない者よ』


 短い一文。


 それだけで、

 観測者が“誰に向けて”語りかけているかが分かる。


『それでも世界を守る理由は、何だ』


 問い。


 脅しでも、命令でもない。

 ただの質問。


 だが――

 答えなければ、次が来る。


 無視すれば、

 観測者は学園に近づく。


 応じれば、

 自分は前に出ることになる。


 レオナールは、静かに息を吐いた。


「……敵か、味方か」


 まだ、分からない。


 だが、一つだけ確かなことがある。


 この問いを投げてきた相手は、

 甘くない。


 そして――

 もう、逃げられない。


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、

 夜空を見上げる。


 英雄が光の中で戦うなら、

 悪役は、影の中で問いに答える。


 それが、

 この世界を守るための次の一手だった。


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