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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第25話 悪役の代償

 朝の学園は、何事もなかったかのように始まった。


 鐘が鳴り、生徒たちは寮を出て、いつもの道を歩く。

 教員は授業の準備をし、訓練場には規則正しい足音が響く。


 昨夜の異変を知る者は、誰もいない。


 結界は安定し、警報も鳴っていない。

 記録魔法にも、異常値は残っていなかった。


 学園は、完全に無傷だった。


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、その光景を遠くから眺めていた。


 胸に広がるのは、安堵でも達成感でもない。

 ただ、事実の確認。


 ――守られた。


 それだけは、確かだった。


 授業は通常通り行われる。


 結界理論の講義では、昨夜扱った構造が偶然にも話題に上がった。


「理論上、この箇所が破綻すれば、学園全体に影響が出る」


 教師は淡々と説明する。


「だが、現状その兆候は見られない。

 安定した結界設計の成果だ」


 教室に、安堵の空気が広がる。


 誰も疑わない。

 誰も、昨夜の選択を知らない。


 レオナールは、静かにノートを閉じた。


 昼休み。


 廊下を歩くと、断片的な会話が耳に入る。


「外の街道で、ちょっとした魔力事故があったらしい」


「霧みたいなのが出たとか」


「魔法具が一時的に動かなくなったって」


 声は軽い。

 噂話の延長だ。


「でも、死者は出てないんだろ?」


「学園とは関係ないしな」


 安心したような笑い声。


 学園は平和だ。

 守られている。


 だから、外の出来事は「他人事」になる。


 レオナールは歩きながら、頭の中で情報を整理する。


 時間。

 方角。

 歪みを誘導した先。


 ――一致している。


 学園外で起きた異変は、

 昨夜、自分が逃がした歪みの余波だ。


 被害は小さい。

 軽傷者のみ。

 死者なし。


 最悪の想定と比べれば、遥かに軽い。


 それでも――

 被害は、確かに存在する。


 午後、資料庫。


 外部から届いた簡易報告書に目を通す。


 公式には「原因不明の魔力乱流」と処理されている。

 対策も、形式的なものに留まっている。


 誰も、学園との因果関係を疑っていない。


 疑う理由がない。


 レオナールは、静かに視線を落とす。


 もし、あの場で完全消去を選んでいれば。

 もし、封印を試みて失敗していれば。


 学園は今、無事ではなかった。


 訓練中の生徒が巻き込まれ、

 死者が出ていた可能性もある。


 勇者が前に出れば、

 結界全体が暴走していた可能性も高い。


 論理的には――

 あの選択は、最善に近い。


 それでも、胸の奥に残る感覚は消えない。


 誰かが傷ついた。

 それを、自分が選んだ。


 放課後。


 中庭では、いつものように訓練の話題が飛び交っている。


「学園は安全だよな」


「結界、ほんと強いよな」


 誇らしげな声。


 守られた側の無自覚な安心。


 それが悪いわけではない。

 むしろ、正しい。


 世界は、守られている時ほど、

 守った存在を意識しない。


 レオナールは、その輪の外を歩く。


 誰も、彼を責めない。

 誰も、彼を讃えない。


 だからこそ、逃げ場がない。


 夜。


 寮の自室で、ランプの灯りを落とし、

 彼は一人で考える。


 後悔は、ない。


 もし同じ状況がもう一度訪れても、

 同じ選択をするだろう。


 だが――

 それで責任が消えるわけではない。


「俺がやった」


 小さく、しかしはっきりと呟く。


 誰にも聞かれない言葉。


 だが、自分には聞こえる。


「だから、俺が背負う」


 裁かれる必要はない。

 赦される必要もない。


 必要なのは、次に備えることだ。


 被害が出た場所。

 歪みが残した痕跡。


 それを追えば、

 必ず、別の誰かが気づく。


 世界には、異変を利用しようとする者もいる。

 歪みを調査する者もいる。


 学園の外で、

 何かが動き始めている。


 レオナールは、窓の外を見る。


 夜空は静かだ。

 何も起きていないように見える。


 だが、彼には分かる。


 悪役の代償は、

 罰としては現れない。


 次の責任として、

 必ず姿を変えて戻ってくる。


 そして――

 それを引き受けるのは、

 いつも自分一人だ。


 それでも、逃げない。


 それが、

 レオナール・フォン・グラントヴァルが選んだ生き方だった。


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