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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第24話 誰にも頼れない戦い

 深夜の学園は、昼とはまるで別の顔をしていた。


 灯りは落ち、回廊には人の気配がない。

 風の音すら遠く、結界の内側にある世界は、まるで呼吸を止めているかのようだった。


 レオナール・フォン・グラントヴァルは、誰にも見られない裏動線を進んでいた。


 緊急時のために設けられた、だが今はほとんど使われない通路。

 正規の記録には残らず、学園の地図にも載らない。


 英雄が通る道ではない。


 だからこそ、彼はここにいる。


「……静かすぎるな」


 小さく呟いた声は、石壁に吸い込まれるように消えた。


 静寂は、安全を意味しない。

 むしろ、異変が臨界点に近づいている証拠だ。


 魔力の流れが、どこかで滞っている。

 微細な歪みが、波紋のように広がっている。


 足を止め、目を閉じる。


 感覚を研ぎ澄ますと、結界の隙間に――意思のようなものが触れた。


「……やはり、これか」


 歪みの正体は、単なる魔力の乱れではない。


 前回の事故で生まれた副産物。

 結界の再構築時に切り捨てられた魔力が、半自律的に残留したもの。


 意思と呼ぶには脆く、

 現象と呼ぶには執拗。


 時間が経てば、必ず拡大する。

 そして、誰かが触れれば――暴走する。


 英雄が正面から斬れば、

 確実に学園全体を巻き込む。


「……厄介だな」


 レオナールは、ゆっくりと選択肢を整理する。


 完全消去。

 最も確実だが、結界に致命的な負荷がかかる。

 翌朝には異常が露見し、調査が入る。


 封印。

 成功すれば最小被害。

 だが成功率は低く、失敗すれば即座に崩壊。


 誘導。

 学園の外へ逃がす。

 被害は外部に出るが、学園は守られる。


 ――どれも、正解ではない。


 どれを選んでも、誰かが傷つく。

 どれを選んでも、責任は残る。


 歪みが、わずかに脈打った。


 反応している。

 こちらを、認識し始めている。


 魔力が削られる感覚が、肌を刺した。


「……来るか」


 一歩、距離を取る。


 もし、ここで倒れれば。

 もし、判断を誤れば。


 ――誰にも知られず、終わる。


 勇者は来ない。

 エリシアもいない。

 教員も、学園も、ここにはいない。


 助けを呼ぶ相手はいない。


 それが、今の自分の立場だ。


 胸の奥で、恐怖が形を持つ。


 死が、現実味を帯びる。


 それでも、足は止まらなかった。


「……悪役は、こういう場面でしか動けない」


 誰かに許可を取れば、遅れる。

 誰かに説明すれば、時間を失う。


 なら、背負うしかない。


 レオナールは、第三の選択肢を選んだ。


 誘導。


 学園を守る代わりに、

 外の世界へ危険を送る。


 誰にも相談しない。

 誰にも認められない。


 それでも――やる。


「俺が背負えばいい」


 結界の裏側に干渉し、

 歪みの流れを外縁へずらす。


 暴れないよう、刺激を最小限に抑えながら、

 逃げ道を作る。


 魔力が、軋む。


 歪みが抵抗する。


 痛みが走り、視界が揺れる。


 それでも、止めない。


 ここで手を離せば、

 すべてが無駄になる。


 長い数分。

 あるいは、ほんの数秒。


 時間の感覚が、曖昧になる。


 やがて――

 歪みは、結界の外へと流れ出した。


 完全な消滅ではない。

 だが、学園の内側からは消えた。


 レオナールは、壁に手をついて息を整える。


 成功だ。


 誰にも知られない成功。


 夜が明ける。


 学園は、何事もなかったかのように目を覚ます。


 異変は記録に残らない。

 報告書も上がらない。


 平穏は、守られた。


 だが――

 学園の外、遠く離れた場所で。


 小さな違和感が、生まれ始めていた。


 誰も、それを知らない。


 英雄も、学園も、

 そして――レオナール以外は。


 世界は救われた。


 だが、その代償は、

 誰にも見えない場所へ送られた。


 それが、悪役の選択だった。


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