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エロゲ世界の悪役公爵子息に転生したけど、聖女を救うと世界が滅ぶらしい  作者: 海鳴雫


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第23話 悪役として生きる

 朝の鐘が鳴る。


 その音色は、昨日までと何一つ変わらない。

 学園は規則正しく、一日を始める。


 変わったのは――

 その中での、レオナール・フォン・グラントヴァルの立ち位置だけだった。


 登校路を歩くと、視線がかち合いかけて逸らされる。

 小さな会話が、彼の前で自然に途切れる。


 露骨な敵意はない。

 囁き声も、指差しもない。


 だが、距離だけは確かに存在していた。


 教室に入る。


 席は以前と同じ場所にある。

 それでも、隣は空いたままだ。


 かつては、形ばかりの挨拶程度は交わしていた。

 今は、それもない。


 レオナールは何も言わず、腰を下ろす。


 気にしていないわけではない。

 ただ――もう、想定の範囲だった。


 授業が始まる。


 結界理論。

 魔力循環の基礎構造。


 教師の声を聞きながら、

 レオナールの思考は別の場所にあった。


 結界区画で逃がした歪み。

 完全に消えなかった残滓。

 学園全体に、薄く残る違和感。


 誰も気づいていない。

 あるいは、気づこうとしていない。


 昼休み。


 訓練場へ向かう生徒たちの流れから、

 レオナールの足取りだけが外れていた。


「今日は見学で」


 教員の声は、柔らかい。

 配慮という名の管理。


 危険な存在を、前線に立たせない。

 それが学園の判断だった。


 レオナールは、素直に従う。


 抗う理由はない。

 抗えば、余計に立場を悪くする。


 表舞台から外されたことは、

 すでに受け入れていた。


 訓練場の中央では、勇者が剣を振っている。


 集まる視線。

 期待と称賛。


 その光景を見て、レオナールは思う。


 ――あれが、この世界の正解だ。


 前に立つ者。

 守る者。

 称えられる者。


 そして、自分は違う。


 英雄が光の中に立つなら、

 自分は影の中に立つ。


 午後、資料庫。


 古い結界記録。

 失敗とされた実験報告。

 公式には採用されなかった理論群。


 英雄が扱わない領域。

 だが、世界を支えているのは、往々にしてこういう部分だ。


 ページをめくる指は、落ち着いている。


 後悔はない。

 迷いもない。


 ただ一つ、確信していることがある。


 理解されないことは、悪役の条件だ。


 説明を始めれば、判断は遅れる。

 納得を求めれば、世界は先に壊れる。


 だから、語らない。

 だから、独りで動く。


 夕刻、学園の端。


 人のほとんど通らない回廊で、

 レオナールは足を止めた。


 空気が、わずかに歪んでいる。


 魔力濃度の変化。

 微細だが、確かだ。


「……やはり、残っているな」


 前回の歪みは消えたのではない。

 場所を変え、形を変え、静かに生き残っている。


 しかも今回は、猶予が少ない。


 教員に報告するか。

 勇者に知らせるか。


 答えは、最初から出ていた。


 信じてもらえない。

 今の自分は、疑われる側だ。


 なら――選択肢は一つしかない。


「一人でやるしかない」


 誰にも頼らない。

 誰にも説明しない。


 結果だけを残す。


 それが、悪役の生存戦略だ。


 夜。


 学園の灯りが、ひとつずつ消えていく。


 英雄は休み、

 世界は眠る。


 その裏で、

 レオナール・フォン・グラントヴァルは動く。


 戻る場所は、もうない。


 それでも進む。


 英雄が光の中で戦うなら、

 悪役は影の中で生き続ける。


 それが、この世界を保つ条件だと、

 彼は理解していた。


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