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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
守紋の記憶:Echoes of the Lost Realms
9/39

桐の木

(ゆう)、間に合ってよかった」

 (たまき)は、金蘭簿(きんらんぼ)をポケットにしまいながら言った。

志音(しおん)さんから、(りん)さんのことも聞いています。先輩ワタリビトがソラクアに行っているって」

「志音さん? ワタリビトって?」

 悠は、環の方を向いて聞いた。

「名前のない店の店長さんの志音さんだよ。悠が先に行ってるって聞いたんだ。ワタリビトは、僕たちのようにコードノヴァとソラクアを行ったり来たりできる人たちのことをそう呼ぶらしいよ。」

(そうだった。環は段取り上手だった。きっと、名前のない店(あの店がそう呼ばれているのも今知ったけど)で、いろいろ情報収集してから来たんだろうな。直感で動く僕とは、やっぱり違うな……)

 と悠は思った。

「君の決断を尊重するよ。私の偏った感情が黒龍(こくりゅう)を呼び寄せてしまった」

 倫がゆっくりと言った。

「ところで腹は空いてないか? 近くに村があって、そこで知り合いがいるんだ。行ってみるかい?」

 その言葉で、悠はお腹がペコペコなのに気づいた。

「はい!行きます」

 悠と環が同時に答えた。

 森の中に入るとそこに小さな村があった。木でできた家が数件ぽつり、ぽつりと建っていた。倫は、水車に一番近い建物へ近づいて行った。

「こんにちは」

 倫は、扉をノックした。中からガタガタ物音が聞こえて、少しして扉が開いた。

「今日は一人じゃないのね」

 三つ編みの少女が出てきた。同じくらいの年に思えた。

「お父さんとお母さんは?」

「仕事で出ていて、夕方に帰ってくるわ」

「そうか。何か食べるものあるかい?」

「おむすびでよかったら、どうぞ」

 少女はそう言って、中に入っていった。倫の後をついて悠と環も中に入った。靴を脱いで部屋に上がり、丸い机の前に座った。

「変わった服ですね。初めて見ました」

 環が興味深そうに倫に話しかけた。

「着物というらしい」

 倫が静かに答えた。

「どうぞ」

 少女が丸い机の上に、おむすび三個と水の入った茶碗を三つ置いて座った。

「はじめまして。私は陽向(ひなた)。あなたたちは?」

「悠」

「環です」

 倫がおむすびを一つ手に取って食べた。悠と環も続いて食べた。白いご飯に色がついているお米も混じっているようで、初めて食べる触感と味だった。とてもお腹が空いていたせいか、とても美味しかった。

「倫さん、今日、川の上流で変なところがあったんだけど」

「どんな風に?」

 食べ終えて茶碗の水を飲んでいたのを止めて、倫が聞いた。

「桐の木が二本あるところがあって、なんだか変なの。木と木の間が通れない感じ」

 倫は水を飲み干すと、ポケットから綺麗な石を一つ机の上に置いた。

「そうか、行ってみるか」

 と言って立ち上がった。悠と倫も急いで水を飲み干して立ち上がった。

 陽向の後をついて、水車の横の川を上流に歩いていくと、ほどなくして桐の木が二本見えてきた。

「ここよ」

 陽向はそういうと、桐の木の根本まで行った。

「この木の間を通ろうとしても通れないの。通ったつもりでも、またここに戻るの」

 陽向が桐の木と木の間へ進んで行くと一瞬ぱっと姿が消えて、また同じ場所に立っていた。

「ね、変でしょ?」

 陽向がこちらを見ながら不思議な顔をしていた。

「分かった。陽向はもう帰っていい。」

 倫がそういうと、陽向は後はよろしくといわんばかりに家へと帰っていった。倫は、ゆっくりと二本の木の前を歩き、何かを探しているようだった。

「これだ」

 倫が右側の桐の木の根本を指差した。悠と倫は、指差したところの近くに行って見た。そこには紋様があった。それは雲龍だった。

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