はじめたことの片は僕がつけるんだ
「取引をしないか?」
少年は悠と向かい合ったまま問いかけた。
「取引?」
「君をアカツキノ大陸の王にしてあげよう」
「何と引き換えに?」
「チップを持っているのが誰か教えてくれるだけでいい」
悠は、少年の目を力強く見た。
笑顔でもなく脅すでもなく、
少年の表情は変わらないままだった。
「……それは、できない。それに、僕は王になりたいとも思わない」
「君が教えてくれれば、全員、生きて返してあげるのに」
――!!!
怒りがこみ上げてきて、無意識に両手をぎゅっと握った。
そして、一切感情が伝わってこない少年の言葉に、姿に
悠は少年が人とは完全に違うものだというのを自覚した。
そして、その血の通わない何かと対峙していることに
恐怖とは違う別の恐ろしさを感じていた。
悠の嫌悪感を認識したかのように少年は話を続けた。
「仲間なんて面倒だ。足手まといになるだけだ。それか、裏切るんだよ。人間の歴史を見れば分かるじゃないか」
悠は、その言葉に対し反射的に問いかけた。
「もしかして、それでここには他のヒューマノイドがいないの?」
「そうだよ。僕が全支配していたって、ヒューマノイドが更に発展していくといつ裏切られるか分からないからね。だから、全部消したんだよ」
「……陽向はヒューマノイドだったじゃないか」
「さすがに、僕もアカツキノ大陸を留守にする訳にはいかないからね。陽向はチップを探すためだけに作った僕のコピーヒューマノイドだよ」
悠はどこからともなく込み上げる怒りを抑えながら、冷静に考えようとしていた。
この恐ろしく冷淡で、
いや冷淡という感情さえもないと思え、
思考回路も桁違いに速いものに、
僕は欺くことはできるのか?
駆け引きできるのか?
――いや、小手先の考えは通用しないだろう
――覚悟を決めろ
――ジェノコードは消滅させる。源家のはじめたことの片は僕がつけるんだ
悠は、深く深呼吸してジェノコードを真っすぐに見た。
そして、悠はこの時はまだ気づいていなかった。
5人の仲間がいるということが
心の奥底で確かな勇気の源の一つになっていることに。
環、倫国王、志々度総隊長、ゼン、鈴は
おびただしい数のミサイルを目の前にしばらく言葉もなかった。
「これって、もしかして……」
環はそれ以上は恐ろしく言葉にできなかった。
(ツクヨミノ大陸を……人々を……)
環が言った。
「ジェノコードを消滅させなけば……」
その場にいる誰もが同じことを思っていた。
そして、倫国王はつぶやいた。
「ここまで妨害も何もないとすると、ここを見られてもいいということか……。もしくはチップを奪うまでは手は出せないということか……。いずれにしても、行くしかない」
その言葉に、志々度総隊長は隠し通路を北の方に進んでいった。
暗闇の中、5人は静かに進んでいった。
志々度総隊長が立ち止まった。
後ろを振り向き、この上だと手で合図した。
志々度総隊長は、タラップを上がっていくと、
そろりと上の蓋のようなものを動かした。
素早く、上に出ると安全なのを確かめて、
続けて上がってくるようにと手で合図を送った。
環、鈴、倫国王、ゼンもタラップを上がっていった。
建物の通路に出たようだった。
通路の角を曲がると、部屋の扉が見えた。
扉の傍まで5人は静かに歩いて行った。
「……」
中から話声が聞こえてきていた。
倫国王が腰の聖剣に手をかけた。
志々度総隊長は、それを合図に扉を開けた。




