狛犬と獅子
「向こうからこちらに来るだろな……だが、ここで待っているより、この大陸を少しでも調べよう」
倫国王が、数キロほど先にある一際高い白い建物を見ながら言った。
「そうですね。あの建物の方へ行ってみましょう」
環も同意した。
「しかし、ここは本当に“ヒューマノイドによる完全デジタル社会”が実現したのか?」
どこもが色彩のない無機質な素材で作られている道や建物に
歩きながら、先頭を歩くゼンが言った。
建物や物体はたくさんあるが、
どこか閑散とした音もない風景だった。
「まだ結論は出せないさ」
志々度総隊長が、倫国王の少し後ろを歩きながら言った。
「そうだな」
ゼンも同意しながら先を歩いた。
悠、環、鈴は、後ろからついていきながら
周囲を観察していた。
平坦な道から坂道に変わるところで
先頭をあるくゼンが立ち止った。
坂道の手前に左右に動物のような大きな像があった。
「狛犬と獅子か」
左右の大きな像を見上げながらゼンが言った。
左側には、角があり口を閉じている狛犬だった。
右側には、角がなく口を開けている獅子だった。
「なんでこんなところに?」
志々度総隊長が言った。
「この先が重要な建物かもしれないな」
ゼンが言いながら先を見て、歩みを進めた。
6人が狛犬と獅子の間を通ったかと思うと
ズシンッ!
と左右から大きな音がした。
「うわっ!」
大きな風が吹き、大きな声が聞こえたかと思うと
悠の姿はもう見えなくなっていた。
「悠!!!」
環が大きな声で叫び、見上げた空には
獅子の姿はもう小さく見えていた。
急ぎ悠を追いかけようとする間もなく
ズシンッ!
と大きな狛犬が5人の前に立ちふさがった。
「獅子が悠を咥えて飛んで行きました」
環が早口で、前を歩いてその瞬間を見ていなかった
倫国王と志々度総隊長とゼンに言った。
「これをなんとかしないと跡を追えないな」
倫国王も早口で答えながら、狛犬を睨んでいた。
狛犬が両前足を高く上げ、振り下ろした。
ズシンッ!
と大きな音と共に、地面がゆれ動いた。
5人は立っていられないほどの揺れだった。
狛犬が閉じていた口を開けると
大きな風を起こしながら
5人を吹き飛ばそうとした。
その瞬間、鈴が前に飛び出し
鉄のような金属のシールドレイヤーを出し、
吹き飛ばされるのを防いだ。
しかし、ガタガタとシールドレイヤーは今にも吹き飛ばされそうだった。
「3人は下がってください」
志々度総隊長が隣にいる倫国王に言うと
ゼンに目配せをした。
ゼンは察すると、さっと左へと飛び出していった。
同時に倫国王、環、鈴姫は後ろへと下がっていった。
シールドレイヤーがもたず、吹き飛ばされた。
志々度総隊長の姿はそこにはなかった。
狛犬が左側から飛び出したゼンに向かって
大風で吹き飛ばそうと
閉じた口を大きく開けた。
その時、右側から高く飛び上がった
志々度総隊長が狛犬の口に何かを投げ込んだ。
ズンッ!
狛犬のお腹辺りで低い爆発音が聞こえると
狛犬の動きが止まった。
そして、ゆっくりと横に倒れていった。
ドスンッ!
大きな音と揺れと共に狛犬は横倒しになった。
口からは黒煙が薄っすらと出ていた。
「狛犬のロボットか。獅子も恐らく同じ。しかし、なぜ悠を連れて行ったのだ……」
横たわった獅子を見ながら倫国王が言った。
狛犬の首ともを探り、
環はバーチャルキーボードを表示すると
素早くキーを打ち始めた。
「データが全部消されています……」
環はバーチャルキーボードをしまい立ち上がった。
「どの方向に向かって飛んで行った?」
倫国王が環に尋ねた。
「あの建物の方向です」
環が指差したのは、目指していた一際高い白い建物だった。




