白い麒麟
ゼンが剣を振り上げ、
襲い掛かる白い麒麟と倫国王の間に
見る見るうちに炎の壁を立ち上げた。
その間に、志々度総隊長は
倫国王の前に立ち、煙幕を張った。
――速い!
悠と環が守紋を動かすよりも速く
空気が裂けそうなほど
肌がヒリヒリとするほど
目の前の状況が動いていた。
それでも、悠と環は
竹と虎、桜と鱗と蝶の守紋を
かつてないほど速く白い麒麟へ向かわせた。
煙幕が薄れると
そこに倫国王と志々度総隊長の姿はなく
白い麒麟の姿がピタッと止まり
ぎょろりと目を動かし周囲を探していた。
ゼンは動きが止まった白い麒麟を見過ごすことはなく
船上から高く飛び上がり
一番前にいた白い麒麟へと切りかかった。
その後ろの3つの白い麒麟へは
悠と環の竹と虎、桜と鱗と蝶の守紋が
渦を巻くように取り囲んだ。
「無駄なことを」
「その程度か」
「諦めろ」
白い麒麟が口々に声を発すると、ひと動きで
ゼンも守紋も全てが
ドンッという大きな音と揺れと共に
船上に叩きつけられた。
「隠れている訳にはいかない」
「ここは耐えてください。狙いは聖剣です」
「では、聖剣を鈴に預けて私も戦おう」
「お待ちください」
楼閣の中で、倫国王と志々度総隊長が
小さな声で言葉を交わしていた。
(どうしたらよいのだ……)
志々度総隊長は、一先ず、楼閣に逃げたが、
どうしたら打開できるかと迷っていた。
ただ、
倫国王と聖剣を失うことだけは避けなくてはならない――
ということだけは、本能で分かっていた。
環は気になっていた。
さっきから、1つだけ言葉を発しない白い麒麟がいることに。
(もしかして、あれが鍵じゃないのか?)
環はじっと、1つの白い麒麟を見た。
(そうだとして、どうやって倒す?)
まるで解けないパズルを目の前にしているようだった。
(でも、ゆっくり考えてる時間はないんだ)
環は大きく深呼吸した。
次、攻撃を受けたら動けなくなるかもしれないと思うくらい
ゼンも守紋もダメージを受けていた。
それでも立ち上がる姿に目に闘志を失っていなかったのが、
遠目からでも分かった。
「止めるな!私は行くぞ!」
窓からその様子を見た倫国王は
楼閣から飛び出した。
(ええい!ままよ!)
志々度総隊長も倫国王の後ろをついて出た。
(自分の身に変えても倫国王をお守りする!)
その決意で飛び出していった。
倫国王と聖剣の姿を目にした4つの白い麒麟は
すぐさま、そちらの方に飛んで行った。
倫国王は聖剣を構え、対峙しようとした。
しかし、白い麒麟のあまりの速さに
――四瑞の守紋は間に合わない!
船上にいる誰もがそう思った。




