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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
消えた大陸: The disappeared continent【第五章 第一部】
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名前のない船

 (しょう)当主と(すず)の案内で、五人は船の中へと入っていった。


「これがアカツキノ大陸から来た船……」

 (ゆう)はゆっくりと周りを観察しながら、

 皆の後を歩いた。


 木でずっしりとできた重厚感は中も同じだった。

 階段を上がると船上(せんじょう)に出た。

 広い船上の上には、立派な楼閣(ろうかく)があった。

「すごい。船の上に家がある」

 悠が思わず言葉にした。

「“海上の城”とも言われたそうだ」

 鐘当主が悠に話しかけながら、楼閣の扉を開けた。

 中は船とは思えないほど広く、また彫刻も施され美しかった。

 中央には地図が置かれている机があった。

 戦略を立てるような重々しい雰囲気に

 悠も(たまき)も圧倒された。

 鐘当主、鈴と五人は、机をぐるりと囲む形で傍に立った。


「大陸が二つ……アカツキノ大陸とツクヨミノ大陸でしょうか」

 地図を見ながら環が尋ねた。

「おそらくそうだと思います。こちらが、ツクヨミノ大陸、ここが今、私たちがいる羽国です」

 鐘当主が、左側の大陸の西側の端を指差しながら答えた。

「そうすると、こちらがアカツキノ大陸か……」

 倫国王が、右側の大陸を指差しながら言った。

「はい。金子家(かねこけ)では何度かアカツキノ大陸と思われる辺りまで行きましたが、全く何もなく海だけだったそうです」

「どうやって行ったのだ?」

「この船自体が移動具(いどうぐ)となっております」

「今も使えるのか?」

「私が当主を継いでからは一度も動かしたことはありませんが、壊れたなど聞いておりませんので動くと思います」


 倫国王は気になっていたことを尋ねた。

「そなたは若く見えるが、いつ当主に?」

「6年前、先代の当主、父と母が亡くなった時に継ぎました。14歳の時でした。鈴はまだ6歳でした」

「そんなにも早く……」

 考えていたより若いことに驚きながらも、

 6歳も年下と思えない大人びた様子に、

(若くして当主となったが(ゆえ)のことか)

 と思えた。


「アカツキノ大陸の探索(たんさく)には、鈴が一緒に参ります」

 鐘当主の言葉に、五人は驚いた顔で鈴の方を見た。

 五人の不安を予見したかのように鐘当主が続けた。

「鈴はこう見えても、金子家の第一姫で、この船の扱いに一番詳しいのです」

 鈴が自信満々の表情で皆の方を見た。


 悠は少し焦った。

 同じ年齢である鈴も環も

 この社会で既に役に立つ技術を身につけていることに。

 しかし、無意識にその焦りを気取られてはならないと

 心の奥へと飲み込んだ。


「そうか。鐘当主がそう申すなら案内は鈴姫(すずひめ)にお願いしよう。早速、出発することはできるか?」

 倫国王が尋ねた。

「もちろんだ!」

 歯切れよく鈴が答えた。

「小さい頃、父上と一緒に行ったときは、この辺りに移動したぞ。だが、何もなかった」

 地図のアカツキノ大陸の西側の海を指差して鈴が言った。


「分かった。行くだけ、行ってみよう」

 倫国王は、皆の顔を見ながら言った。


「では、私は船を降ります。鈴、頼んだぞ」

 鈴は、分かったという顔で鐘当主へ頷いた。

 そして、鐘当主は礼をして、部屋から出ていった。


(かつて金子家は、最強の水軍をまとめていたと聞くが――)


 鐘当主の後ろ姿を見ながら、

 先を急いでいなければ

 倫国王はもう少し話を聞いてみたいとも思っていた。


 鈴は、窓から鐘当主が船から降りたのを確認すると

「行くぞ!」

 と部屋の中で船の先端の方へ駆けていった。


 窓の下には()紋様(もんよう)があり、

 鈴が手をかざししばらくすると、

 窓が全て白くなり外の景色は見えなくなった。


 ドドォォーン!


 と海上に着水する音と揺れがあり、

 五人は揺れる船内で、

 転げないように机に掴まったり、

 壁に手をついたりした。


 そして、窓の外は

 どこまでも広がる青い海だけが見えていた。

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