羽国
悠、環、倫国王、志々度総隊長、ゼンは、
朝が明けてすぐ、羽国の巨大な門の前に立っていた。
「志々度さんは、その壺の術で、どこでも行けるんですか?」
悠が横に立っている志々度総隊長に尋ねた。
「自分が行ったことある場所に印をしたところだけだな」
「どれくらいあるんですか?」
「この術を伝授した時に、この大陸を隅々まで旅させられたな……」
志々度総隊長は、げっそりした思い出したくない顔をしていた。
「オレも修練時代のことは思い出したくないな……」
同じく青い顔をしたゼンの言葉に、
悠は
(もうこれ以上は聞くのを止めておこう)
と思った。
「ここの門はとても大きいですね」
環が空気を変えるように話題をふった。
「この大陸の周囲は高い崖だからな。唯一、羽国の海岸だけが海に出られる港があるんだ」
志々度総隊長が答えた。
「昔は多くの船が海に出て、多くの行商人や旅人が訪れていたらしい。だから、門も大きかったんだろう」
ゼンが、門を見上げながら続きを答えた。
今はすっかり人通りもなく、静けさが漂っていた。
門をくぐると、微かに潮の香りがした。
初めての香りに、悠も環も高揚した。
門から続く真っすぐの広い道を
潮の香りがする方へ歩いて行くと
道の角から少女が出てきた。
「待っていたぞ!こっちだ」
太陽のように明るい朗らかな声で
大きく手を降りながら
五人に向かって話しかけてきた。
「誰だ?」
五人ともが知らない少女のようだった。
見たことのない動きやすそうな
異国のような服を来た少女がこちらに小走りで来た。
(あ……青海波、矢車の紋様だ)
環は、守紋金蘭簿で見た紋様が
少女の服の柄にあったのに気づいた。
(服が守紋符の訳はないよな……)
「皆が到着したのが、カメラで見えたので迎えにきたぞ。兄様が……金子家当主が港で待っておる。こちらじゃ」
澄んだように響く屈託のない口調に、
五人は疑念を持つことなく後ろをついて歩いて行った。
広い道の左右では、店や家が立ち並び、
朝の準備をしているようで
おいしそうな匂いや人々の声などが聞こえていた。
海がだんだんと近づいて見えてきた。
潮の香りも近くなってきた。
海岸には何艘もの船が停泊していた。
「うわぁ――」
悠と環の表情がぱぁと明るくなった。
「ここからは地面がぷかぷか浮いているから気を付けるのだ」
途中から小道に分かれ、まるで水脈のようだった。
「海に近いこの場所は、大波が来ても被害が少ないよう海の上に浮いているんだ」
少女がバランスよく歩きながら言った。
左手に海岸を入口にした大きな洞窟が見えてきた。
「この中だ」
洞窟を指差しながら、そちらの方に歩いて行った。
「今は干潮だから、海側から行こうぞ」
洞窟に入ると少女は懐からごそごそと何かを出すと
それは空中にフワフワと浮き、
ぼやっと周りが明るくなった。
明かりと共にゴツゴツした岩場を歩きながら、
洞窟の奥へ奥へと歩いて行った。
足元にかかる海水に足を滑らさないよう
五人は少女の後をついて歩いていくと
行き止まりだった。
「ここは岩に見えるシールドレイヤーで守られておる。兄様が中から開けてくれるのを待つのだ」
ブォン――
小さな電子音が響き、
目の前の岩の壁が薄っすらと徐々に擦れていった。
半透明になったかと思うと
真っ暗な奥が見えた。
「お待ちしておりました」
真っ暗な奥から人影がこちらに向かって歩いてきていた。
倫国王より少し年下に見える白い衣服を着た若者だった。
「金子家当主の鐘と申します。鈴は挨拶はしたのか?」
少女の性格を知っているようで優しい口調で少女の方を見た。
少女は、しまった!という表情で慌てて
「鈴と申す」
と五人に向かって挨拶した。
「羽国には初めての起こしのようだのようで、ゆっくりとおもてなしをしたいと思っておりましたが、源当主のお話を伺うところ、先をお急ぎかと思い、妹の鈴に直接、ここへ案内させました」
(若く見えるが、機転の利く当主だ)
倫国王は、鐘当主の勘の良さに好感を持った。
「早速、古の人々がアカツキノ大陸から移住してきた時の船に案内いたします」
鐘当主が右腕をゆっくと上に上げていくと
洞窟の中がゆっくりと明るくなっていった。
そして、真っ暗な空間から
徐々に船が姿を現した。
全長30mもあろうかと思われ、見上げるほどに大きかった。
――!!
想像を超える巨大さに五人は言葉を失っていた。
「安宅船を模して作られた“名前のない船”です」




