過去から託された一筋の希望
サク、サク、サク。
うっすらと降り積もる雪を踏みしめながら五人は歩いていた。
先頭を歩いていた悠が
足を止め、振り返った。
「高祖父が……源家がすみません。僕は力がなくて……」
絞り出すように下を向いたまま悠が
悔しそうに言った。
(その年で責任を負うか。生来の生まれ持った気質なのか……それとも血脈がそう思わせるのか)
倫国王は、まだ小さな体なのに
重荷を背負おうとしている悠の肩に
片手を置いて優しく話しかけた。
「悠が謝ることではない。一人で背負いこむな。といっても気になるだろうが……当事者にしか本当の真相は分からないものだ。私達は今できる最善をやろう」
「そうだ。おまえが責任を感じることではない」
ゼンも続けて声をかけた。
悠が顔を上げると、
四人は誰も責めるでもない顔でこちらを見ていた。
いつの間にか雪は止んでいた。
吐く息が白かった。
冷えた空気に
少しずつ冷静さを取り戻していった。
悠は振り向いて、薄曇りの空の下、
先を歩いて行った。
四人も後について行った。
先に進んでいくと、
木々の間にぽっかりと空間があった。
「ここです」
悠が示した先には、
数十個ほどの石や木や様々な形の墓標があった。
「確か、父は南側の端にあるだろうと言っていました」
悠は空を見上げて、
方角を確かめてから歩き出した。
「どんな形か聞いた?」
墓標を確認しながら環が聞いた。
「うん、細長い石でできてて源家って書いてるって言ってた」
悠も一つ一つ確かめるように見て歩いて行った。
「これじゃないか?」
志々度総隊長が、悠の方に声をかけた。
四人は、志々度総隊長のところに集まった。
手のひらほどの幅の石でできた
悠と同じくらいの背丈の墓標が建っていた。
正面には、源家という文字と丸に水の紋様が彫られてあった。
横には小さな文字で名前が彫られてあった。
「あ……」
悠が何かに気づいて声を出した。
「これ、高祖父の名前です」
悠が指差すところを見ると
――源渡
と彫られてあった。
悠は、墓標の前に来ると両手を合わせた。
四人も悠の後ろでそっと手を合わせた。
拝み終わると、五人は墓標の周りを見てみたが
特に変わったようすや手がかりになりそうなものはなかった。
「この墓標は、高祖父が建てたと聞いたから、何かあれば思ったんですが……」
そして、悠がぐるりと他の墓標を見た後、ぼそっと言った。
「次は花を持ってこよう……」
墓標の前に石でできた筒みたいなものがあった。
周りにも所々同じようなものがあり、
空のものもあれば、花が飾られているものもあった。
墓標の下の方を見ている悠に倫国王が話しかけた。
「花や木を供えるための花器だな」
ふと、悠は違和感を覚えた。
「これだけ、石じゃない……」
「え?」
環が悠の傍に行った。
「いや、石なんだけど本物の石じゃないと思う」
うまく言葉にはできないが、感覚で何かが違うと思えた。
(随分、見る力が養われているな)
倫国王は感心した。
「これはかなり精巧につくられた模造品ですね。おそらく陽向……ジェノコードも見逃したのでしょう」
志々度総隊長が花器に触れながら言った。
志々度総隊長が立ち上がり、
後ろに立っていたゼンに場所を譲った。
ゼンが花器を軽く叩きながら確かめて言った。
「下の方に何かあるかもしれない。切ってもいいか?」
「はい」
悠は迷わず答えた。
返事を待って、ゼンは剣を抜いた。
スパッと見えない速さで、花器の下部を水平に切った。
剣を納めると、上を持ってそっと持ち上げた。
ちょうど水が入る部分のギリギリ下を切っていた。
残った下部を覗き込むとゼンは
「何かある」
と言った。
悠が覗き込んで、
中にあるものを握って取り出した。
シャラリ――
悠が手のひらを広げると
ネックレスが一つあった。
「これは……」
悠は、少しくすんではいるが、
シンプルで美しいそのネックレスが
高祖父が残してくれた一筋の希望のように思えた。
悠が持っているネックレスの先には
白い丸い玉があった。
太陽の光にかざし、よく見ると、
うっすらと紋様が見えた。
そこには、三日月の紋様があった。
倫国王は胸に手を当て、ぎゅっと握った。
――同じネックレスだ。
澪王妃から貰ったネックレスと全く同じだった。
――月。宇田国。ツクヨミノ王族……




