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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
守紋の記憶:Echoes of the Lost Realms
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ソラクア

 大きな大きな青い透き通る空が広がっていた。

 それは、今まで見ていた空とは似ているようで違ってるものだった。

 白い雲が流れていた。

 頬に当たる風が気持ちよかった。

 鳥の声が聞こえた。

 全てが似ているようで違っていた。

 柔らかかった。

 周りを見回すと、木々や川があり、家や人影はなかった。遠くに赤い色が広がっているのが見えた。その色の方へ歩いて行くと、辺り一面、赤や橙色に紅葉した楓の木々だった。歩くと落ち葉がざくざく音がした。踏みしめた感覚と音が面白く感じた。進んでいくと二つの影があった。

 男の人と……もう一つは鹿のようだった。歩く音に気付いたのか、男の人はこちらを見た。

「君はコードノヴァから来た」

「はい」

「ここが、ソラクアだ。デジタルが一切ない自然の世界だ」

「自然……?」

「そう、全てが自然だ。この鹿に触ってごらん」

 近づいて鹿の背中に手を置いてみた。柔らかな毛並みだった。

「温かいだろう?」

「はい」

「ロボットの動物にもデジタルで作られた温かみがあるが、本物のこの温かさとは何か違うんだ」

 父さんと同じくらいの年に見えるその男の人は優しい顔で続けた。

「私は、(りん)。コードノヴァとソラクアを行き来して5年になる」

「僕は、(ゆう)です。今日、初めてここに来ました」

「そうか。では少しこの辺りを歩いてみようか」

 倫が手のひらを上に向けると、鹿はくるりと回転して、守紋符(しゅもんふ)になった。紅葉と鹿が描かれた綺麗な守紋符だった。倫は金襴簿(きんらんぼ)にしまうと歩き出した。

 コードノヴァにもある空も川も木も花も同じようで少しずつ違っていた。空は巨大なディスプレイに表示されていたし、川もホログラムで植物もデジタル技術で、ここユニアにあるものを真似て作られていたというのが、少しづつ理解できてきた。

「なんだか懐かしく感じるんです」

 川に流れる水に手を当てながら言った。

「初めて来たとき、私も同じような気持ちだったよ。君はこの世界をどう思う?」

「まだ来たばかりですが、とても美しいところだと思います」

「そう、美しい。そしてここは全てが本物だ。どうしてコードノヴァの世界ができてしまったのか……」

 倫の表情が険しくなった。

「コードノヴァの世界に戻ると何もかもコントロールされていて、自分の行動、感情さえもコントロールされているような気になる」

 倫の言葉が少しづつ早口になった。それと同時に空が曇ってきた。

「そう、支配。支配されていて窮屈だ」

 灰色の雲がみるみる増えてきた。

「悠は、このソラクアとコードノヴァの世界のどちらを選ぶ?」

 雲の厚みは増してきた。

「どちらかを選ぶんですか?」

「そうだ。私はもうコードノヴァの世界には帰りたくない。なくなればいいと思っている!」

 空はすっかり夜のように真っ黒になっていた。突然、空から何かがとてつもない速さで降りてきた。

「そうだ!お前はどちらを選ぶ!?」

 低い大きな声だった。

黒龍(こくりゅう)……!」

 倫が驚きながら見上げた。そこには巨大な黒い龍がいた。

「お前はどちらを選ぶ?」

 大きな目がこちらを見ていた。ヒュォォォ~と強い風が吹いてきた。

「ぼ……ぼくは……」

 ポケットの中が熱くなっていたのに気が付いた。金襴簿を出して、袋を開けてみると守紋符が二枚とも飛び出してきた。くるりと回転すると、雪輪兎(ゆきわうさぎ)竹虎(たけとら)が現れた。

「黒龍が現れるなんて!あなたが引き寄せたんだわ!」

 雪輪兎が倫の方を見て叫んだ。

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