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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
消えた大陸: The disappeared continent【第五章 第一部】
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行かなくてはならない、今がその時だ

 新年を迎え、冬休みも後半に入った。

 くすんだ空からは牡丹雪が降り始めた。


 宇宇国(ううこく)の王の間には

 (りん)国王に(みお)王妃、(みん)王子が呼び出されていた。

「二人を呼んだのは、頼みがあるのだ」

 倫国王を前に、明王子が澪王妃より早く答えた。

「どのようなことでしょう」

 明王子は、なぜこんなに早く宇宇国に呼び戻されたのか考えていた。

 二人の挙式の日だけ呼び戻されたのかと思っていたら、

 このまま王宮に留まるように言われていたからだ。

 倫国王は、消えた大陸の話を二人にした。

「消えた大陸を探しに行かれたいのですね」

 話を聞き終えた、澪王妃が静かに言った。

「そうだ。私がこの国を留守にする間、二人にこの国を護ってほしい」

 澪王妃は、倫国王の目を見ながら(うなず)いた。

 明王子は、戸惑っていた。

 自分にその資格があるのか――と。

 その心を見透かすように、

 倫国王は腰に差した剣を鞘ごと抜いて前に差し出した。

「私に何かあった時は、明、おまえが王としてこの国を護っていくのだ。その証としてこの“鹿角王剣(かづのおうけん)”は、おまえに預けておこう」

 明王子は王剣を手にすることができず言葉にした。

「……私が同じ過ちを犯すとは思わないのですか」

「ふっ、王座に座りたければ、座るがいい。今のお前なら大丈夫だろう」

 明王子は、ハッと顔を上げた。

 倫国王の姿は、以前よりも大きく深く強く見えた。

 明王子は、差し出された王剣を両手で受け取った。

 そして、礼をしながら答えた。

「承知いたしました。決して同じ過ちは繰り返しません。留守の間しっかりとお護りいたします」

 迷いが吹っ切れた眼差しで、倫国王を見ていた。

 澪王妃は、その二人の姿を胸が熱くなる思いで見ていた。

 倫国王は、窓の外に降り積もる雪を見ながら

 胸の奥が少しだけ(きし)んでいた。


 同じ日の午後、

 (たまき)はリビングのソファに座る母親に尋ねた。

「消えた大陸のこと、何か知ってる?」

(りょう)伯父さんから聞いたのね」

 環は、母親の横に座って答えた。

「うん」

「そう、亮伯父さんが知っていること以上のことは私は分からないの。かつて私たちの一族もその大陸にいた、ということしか」

 環は前を向いたまま言葉にした。

「僕、その大陸へ行ってみたいんだ」

「……いつかそんな日が来ると思っていたわ」

 母親は環の方へ、にっこり笑いかけて続けた。

「そう思っていたから、あなたにはいろんなことを教えてきたつもり」

「うん、前に東湖(とうこ)に行ったとき、そうかなって思った」

 環が下を向いて記憶を思い出すように答えた。

「行ってらっしゃい。油断だけはしないで」

 真剣な顔で環の顔を見ながら伝えた。

「分かった。ちゃんと帰ってくるから」

 環は母親の方を見て答えた。

 立ち上がる時、

 もう後戻りはできない……後戻りはしたくない

 そう心に強く思った。


 同じ日の夕刻、

 ダイニングいた父親に(ゆう)は尋ねた。

「消えた大陸のこと、聞いたことある?」

 一瞬、父親の動きが止まり、

 飲みかけのカップをテーブルに置いた。

「そこまでたどり着いたか」

 立っていた悠の方を向いて続けた。

「消えた大陸があるということだけは聞いたことがある。そこから先は、名前のない森に行って源当主(みなもととうしゅ)から聞くのが一番だろう」

「父さん……僕、消えた大陸のことを知りたいんだ。いや……行かなくちゃいけない気が凄くするんだ」

 今まで見たこともない大人びた表情で悠が話す姿を見て、

 父親は動揺もしつつ、

 外の世界へと広がっていく息子を止めることはできないと思った。

「分かった。行っておいで」

「うん、ありがとう」

 悠は、以前のようにワクワクするような気分は少しもなかった。

 どんなことであっても、

 自分自身で受け止めるしかないんだと、

 たとえ見えない行先(ゆくさき)であっても

 行かなくてはならない、今がその時だと、

 心に風が吹いていた。

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