表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
はじまりの守紋: The beginning【第四章 第一部】
62/76

断たれた手がかり

 二人は、底知れぬ恐怖を感じていた。

 ヒューマノイドと戦うのは初めてだったからだ。

 社会の中で、ヒューマノイドロボットはもちろん多用されているが

 人を攻撃するプログラムは一切除外されていたからだ。


 志々度(ししど)総隊長も(りん)国王も同時に攻撃したが、

 素手での攻撃は全て跳ね返された。


(力で敵うはずがないか……)


 倫国王は、楓鹿(ふうろく)守紋符(しゅもんふ)を出した。

 志々度総隊長は、隠し持っていた爆薬を出した。


 無言で冷ややかで容赦のない

 陽向(ひなた)からの攻撃が繰り返された。


 二人も、何度も攻撃を繰り返したが、

 陽向に触れることもできなかった。

 二人とも、もうボロボロだった。

 特に、志々度総隊長は、

 盾のように攻撃を受けていたので

 足もがふらつき、体力も限界に来ていた。

(このままでは倫国王が私を庇ってしまう……)


 倫国王が、陽向からの攻撃を避け、

 空高く飛び上がった瞬間に、

 志々度総隊長は最後の力をふり絞って、両手を叩いた。


 ――倫国王だけでも逃がす


 倫国王が降り立つ軌道上に

 ポンッと大きな壺が現れた。

(しまった!)

 倫国王は、足元に現れた壺に

 志々度総隊長の意図を察した。

 壺の中に体が吸い込まれて行く中、

 志々度総隊長の足元に

 深紅の血が広がっていくのを見た。


「おまえだけを残しては行かない!」


 倫国王は、壺の縁に片手を掛け、

 壺の内側を蹴り上げ、飛び出した。

 そして、その勢いのまま、

 腰の王剣に手をかけた。

 紅葉(もみじ)の大群が、

 大きく空へと飛び上がっていくのを助けた。


 鹿が陽向に向かっていき、

 蹴り上げようとすることに意識を取られ、

 陽向は背後での倫国王の動きを見ていなかった。


 陽向が鹿の首を掴んで

 振り回しはじめた瞬間、


 ドンッ!


 陽向の背中で大きな音がした。


 倫国王の王剣が、陽向の背中を突き刺していた。


 バチッと陽向の目から電子音がして

 バタリと地面に倒れた。


 倫国王は、倒れた陽向の傍に行き、

 ヒンヤリとただの塊のような姿に

 もう危険はないと感じると、

 すぐさま、志々度総隊長の元へ行った。


 助かったのか――。

 志々度総隊長はその場に崩れ落ちた。

 生きているのか、

 もう死んでしまうのか、

 もう何も考えられなかった。


「おまえを置き去りになどしない」

 擦れる意識の中、

 倫国王の声が聞こえた。


 紅葉がゆっくりと志々度総隊長の体を覆った。

 傷口を止血しようとしているのが分かった。

 鹿はゆっくりこちらに歩いてきて、

 護るかのように志々度総隊長の傍に座った。


(早く治療しなくては)

 倫国王が、志々度総隊長の体を起こそうとした時、


「倫さん!」

 後ろで声が聞こえた。

 振り返ると、(ゆう)(たまき)琴滋(ことじ)の姿があった。

 琴滋が

「タン!」

 と叫びながら駆け寄って来た。

 膝をついて抱きかかえると

「大丈夫か?」

 と必死に状態を見ていた。


「志々度さんが、武術の練習にいつまで経っても来ないので、心配で探していたんです。何があったんですか?」

 悠が心配している表情で聞いた。


(そうか。夏休みと同じように冬休みも武術練習に行っていたな)

 倫国王は、悠と環と琴滋がここに来た理由を瞬時に理解した。

 心配している琴滋に

「少しだけ待っていてくれ」

 と声をかけ、

(あんな危険なものをこのままにしておけない)

 と、倒れている陽向の方へ歩いて行った。

 悠と環もその後ろをついて行った。


「え……陽向?」


 悠が驚きの表情とともに声にした。

 倫国王は、陽向の背中に差した王剣を抜きながら思っていた。


(危なかった。聖剣は置いてきていた。この鹿角王剣(かづのおうけん)がなかったら、倒せていなかったかもしれない。それにしても、ヒューマノイドの装甲(そうこう)を貫くとは、何の素材だ)


「なぜ、陽向がここにいたかは分からないが、自分で、“ジェノコード”と名乗り、コードノヴァは自分が作ったと言っていた。それから、研究所にチップがあったはずだと。それを探しているようだった」

 倫国王が、端的に悠と環に説明した。

「ヒューマノイドだったんだ……」

 環が、近づきながら話し続けた。

「それにしてもこんなに完璧なヒューマノイドが存在するなんて……もしかしたら、何か手がかりがあるかも」


 環が、剣を抜いたところから、

 内部を探ろうと、手をかけた時、

 カチリ。

 と音が聞こえた。


「離れて!」

 環が大きな声で、勢いよくその場を離れた。

 倫国王と悠も、その声を聞くと

 瞬発的にその場を離れた。


 ボンッ!

 小さな爆発と共に

 陽向の姿形が消滅していった。


「自己消滅機能か――」


 倫国王のつぶやく声を聞きながら、

 悠も環も同時に、

 想像もできないくらい大きな力をその背後に感じていた。


 倫国王は、陽向が消えた以上、

 一刻も早く志々度総隊長の治療を優先しなくては、

 と振り返り、駆けていった。

「急ぎ、志々度総隊長の治療を」

「東湖に行きますか?」

 後ろを走りながら、環が聞いた。

「そうだな。そうしよう」

 環は扇子(せんす)を出した。


 五人は楓鹿(ふうろく)守紋(しゅもん)と共に扇子の中へ入っていった。

 扇子も消えた後は、

 静かに雪が降り続く景色だけが残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ