ジェノコード
――やはり、何か見落としているんだ。
倫国王は、ソラクアに行き始めてから、
長年、微かな違和感を覚えていた。
その違和感の正体が、
“さっきの少女であること”を本能で理解した。
止まないちらつく雪の中、少女を追いかけた。
それは、名前のない森の方向だった。
志々度総隊長は、
これほどまでに険しく青ざめている倫国王を見たことがなかった。
それ故に、ただ事ではない気配を感じ取っていた。
ただ、黙って倫国王の跡をついていった。
倫国王は少女に気づかれないよう
距離を取りながら追いかけた。
歩きながらずっと考えていた。
――ソラクアで会った少女が、なぜこの時代にいる?
――ありえないが……ありえないことが目の前に存在しているのはなぜた?
――私は陽向に会うとき、一度だって他の人がいたことがあったか?
――いや、いつだって陽向は“一人”だった!
倫国王は、陽向が“人”ではないことに確信を持った。
少女が、名前のない森へ入った瞬間、
くるりと振り返った。
そして、数歩、近づいて来た。
倫国王と志々度総隊長は
突然のことで、ピタリとその場に立ち尽くすしかなかった。
「倫さん、久しぶり。後ろの方、はじめまして」
少女がにっこりと笑った。
「陽向なのか?」
倫国王が、恐る恐る聞いた。
「ええ。あなたなら研究所への道を開いてくれると思って、泳がしていたの。思った通りだったけど、私が中へ入った時は、ほしいものはなかったわ。残念」
陽向は、ニコニコしながら答えた。
「一体、何者だ?何が目的だ?」
人ではない陽向に、倫国王が強い声で言った。
「ふふふ、ようやく気づいてくれたのね。ここでの名前は陽向。だけど本当は、“ジェノコード”。ふふふ、教えてあげる。コードノヴァを作ったのは、私」
陽向は、ニコニコしながら答えた。
「ジェノコード……」
倫国王と志々度総隊長が同時に声にした。
――コードノヴァを作っただって?
倫国王も志々度総隊長も初めて聞く言葉に戸惑った。
「私、チップがほしいんだけど。倫さんなら知ってるんじゃないかしら?」
「何のことだ」
倫は警戒しながら聞いた。
「あら、研究所に入ったでしょう?アイツが隠していたチップがあったはずよ。大人しく渡してくれれば、見逃してあげるわ」
陽向は、ニコニコしながら答えた。
(なんなんだ、この陽向の優越感はどこから来ている)
倫国王は、陽向の自信たっぷりで余裕のある様子に
不気味さを感じていた。
「ジェノコードも、チップも、さっぱり何のことか分からない」
倫国王は、はっきりと答えた。
「なんだ。知らないの。じゃ、あなたもういらない」
陽向は、無表情で言うと、
片手を差し出しながら近づいてきた。
志々度総隊長は、瞬間、危険だと察知し、
倫国王の前に飛び出した。
「無駄なことを」
陽向が、無表情に志々度総隊長の脇腹を払うと
軽々と横に吹っ飛んだ。
「ヒューマノイドか……!」
倫国王は、その力と無機質さに、即座に察した。
そして、志々度総隊長は、失いそうな意識の中、
ギリギリで倒れず踏みとどまった。
「ふぅ……」
志々度総隊長は、深呼吸すると
陽向を真っすぐに見た。




