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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
はじまりの守紋: The beginning【第四章 第一部】
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二週間目

 (ゆう)(たまき)の修練は、こんな感じだった。

 寝る部屋は一つ。

 両端にベッドと真ん中に机。

 向かいにキッチン、食材はあるので自分たちで作って片付ける。

 図書館で見つけたレシピを試したりもした。

 バスとトイレは、部屋の隣。

 着替えとシーツは毎朝、ベッドに置いてあった。

 名前のない店の奥にはいろんな扉があった。

 開けていいのは、修練へ行く扉と図書館を合わせてこの6つ。

 朝は座学。

 昼から守紋(しゅもん)の実践練習。

 夕ご飯を食べた後は自由時間。

 志音当主(しおんとうしゅ)には来客が多いようで、ほとんど顔を合わすことはなかった。

 琴滋(ことじ)さんも修練の時間以外は、部屋に(こも)って何かを作っているようだった。

(時々、いろんな音が部屋から聞こえてきたからそう思った)

 悠と環は、遅くまで本を読んだり、話したりした。

 特に環は、図書館に行き、

 たくさんの本を部屋に持ってきて読んでいた。

「悠、これ見て。古い本なんだけど、とても綺麗な色彩なんだ」

「見せて見せて」

「琴滋さんに教えてもらったんだけど、昔の植物図鑑らしくって、錦絵とか浮世絵っていうらしいよ。この本、好きだな~」

「あ、こんな感じの動物のもあったよ。これこれ」

「昔の絵や色彩って見ていて落ち着くんだ」

「分かる!なんでだろうね」

「ギラつきがない感じ?上手く言えないけど」

「この部屋というか名前のない店の中もそうだよね」

「うん、分かる」

「ソラクアもそんな感じだったな……」

 本を眺めながら、思い出したように環が話した。

「うん……」

麒麟児(きりんじ)なんて言われて何ができるかなんて分からないんだけど……だけど、こうして悠といろいろ修練できるのはうれしいんだ」

 本から顔をあげて、環が言った。

「うん!」

 悠も同じ気持だと伝わるといいなと思いながら返事した。


 修練の二週間目の午後、

 悠と環がいつもの部屋に行くと

 琴滋さんの横に一人の男の人がいた。

 ――五重塔(ごじゅうのとう)で倫さんを呼びに来た人だ。

 悠と環は直ぐに誰かを思い出した。


「今日から、武術練習も行う」

 琴滋が二人に向かって話した。

 悠と環が、男の人に向かって軽く会釈(えしゃく)をした。

「ん?知り合いなのか?」

 琴滋が聞いた。

「あぁ、少しだけな。志々度(ししど)だ」

 悠と環に手を差し出した。

 握手をすると大きくごついその手に、

 悠と環は自分たちがまだ子供だということを

 思い知らされた気がした。

「志々度中隊長は、(りん)国王の補佐役で……」

「ソ・ウ・タ・イ・チ・ョ・ウ・だ」

 琴滋が話すのを(さえぎ)って

 ヘヘン!と自慢げに言ってみせた。

「めんどくさいなぁ。もうタンでもいいじゃないか」

「オレの出世が悔しいのかぁ」

 悠と環は、二人のやり取りを見ていて

 きっと仲がよいんだろなと

 お互いに顔を見合わせ笑った。

 それを見た志々度総隊長は、取り繕うように話した。

「まぁ、琴滋には忍術の道具を作ってもらったり、世話になっているんだ。宇宇国(ううこく)の隊士の服も琴滋に考えてもらってる。隠しポケットやいろんな仕掛けもあったり、動きやすいんだ」

 悠と環は、へ~と改めて、志々度総隊長の隊服を眺めた。

「こいつはこう見えても、五家(ごけ)の中で一番、忍術に長けているんだ。その点は安心して鍛えてもらうといい」

 琴滋が、早く修練をはじめろというばかりに話を進めた。

「武術や体力を身につけておくことは、この先、無駄にはならないだろう。どうだ、やってみるか?」

 志々度総隊長が、悠と環に向かって言った。

「はい!」

「よろしくお願いします」

 二人は元気よく答えた。

「まずは、柔軟からだな。こうだ」

「悠は柔らかいな~」

「おい、環。そこまでしか届かないのか?硬いな~」

 志々度総隊長が、元気よく二人に指導をはじめた。

 そして、琴滋は

 三人の様子をしばらく眺めて部屋を出ていった。

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