二週間目
悠と環の修練は、こんな感じだった。
寝る部屋は一つ。
両端にベッドと真ん中に机。
向かいにキッチン、食材はあるので自分たちで作って片付ける。
図書館で見つけたレシピを試したりもした。
バスとトイレは、部屋の隣。
着替えとシーツは毎朝、ベッドに置いてあった。
名前のない店の奥にはいろんな扉があった。
開けていいのは、修練へ行く扉と図書館を合わせてこの6つ。
朝は座学。
昼から守紋の実践練習。
夕ご飯を食べた後は自由時間。
志音当主には来客が多いようで、ほとんど顔を合わすことはなかった。
琴滋さんも修練の時間以外は、部屋に籠って何かを作っているようだった。
(時々、いろんな音が部屋から聞こえてきたからそう思った)
悠と環は、遅くまで本を読んだり、話したりした。
特に環は、図書館に行き、
たくさんの本を部屋に持ってきて読んでいた。
「悠、これ見て。古い本なんだけど、とても綺麗な色彩なんだ」
「見せて見せて」
「琴滋さんに教えてもらったんだけど、昔の植物図鑑らしくって、錦絵とか浮世絵っていうらしいよ。この本、好きだな~」
「あ、こんな感じの動物のもあったよ。これこれ」
「昔の絵や色彩って見ていて落ち着くんだ」
「分かる!なんでだろうね」
「ギラつきがない感じ?上手く言えないけど」
「この部屋というか名前のない店の中もそうだよね」
「うん、分かる」
「ソラクアもそんな感じだったな……」
本を眺めながら、思い出したように環が話した。
「うん……」
「麒麟児なんて言われて何ができるかなんて分からないんだけど……だけど、こうして悠といろいろ修練できるのはうれしいんだ」
本から顔をあげて、環が言った。
「うん!」
悠も同じ気持だと伝わるといいなと思いながら返事した。
修練の二週間目の午後、
悠と環がいつもの部屋に行くと
琴滋さんの横に一人の男の人がいた。
――五重塔で倫さんを呼びに来た人だ。
悠と環は直ぐに誰かを思い出した。
「今日から、武術練習も行う」
琴滋が二人に向かって話した。
悠と環が、男の人に向かって軽く会釈をした。
「ん?知り合いなのか?」
琴滋が聞いた。
「あぁ、少しだけな。志々度だ」
悠と環に手を差し出した。
握手をすると大きくごついその手に、
悠と環は自分たちがまだ子供だということを
思い知らされた気がした。
「志々度中隊長は、倫国王の補佐役で……」
「ソ・ウ・タ・イ・チ・ョ・ウ・だ」
琴滋が話すのを遮って
ヘヘン!と自慢げに言ってみせた。
「めんどくさいなぁ。もうタンでもいいじゃないか」
「オレの出世が悔しいのかぁ」
悠と環は、二人のやり取りを見ていて
きっと仲がよいんだろなと
お互いに顔を見合わせ笑った。
それを見た志々度総隊長は、取り繕うように話した。
「まぁ、琴滋には忍術の道具を作ってもらったり、世話になっているんだ。宇宇国の隊士の服も琴滋に考えてもらってる。隠しポケットやいろんな仕掛けもあったり、動きやすいんだ」
悠と環は、へ~と改めて、志々度総隊長の隊服を眺めた。
「こいつはこう見えても、五家の中で一番、忍術に長けているんだ。その点は安心して鍛えてもらうといい」
琴滋が、早く修練をはじめろというばかりに話を進めた。
「武術や体力を身につけておくことは、この先、無駄にはならないだろう。どうだ、やってみるか?」
志々度総隊長が、悠と環に向かって言った。
「はい!」
「よろしくお願いします」
二人は元気よく答えた。
「まずは、柔軟からだな。こうだ」
「悠は柔らかいな~」
「おい、環。そこまでしか届かないのか?硬いな~」
志々度総隊長が、元気よく二人に指導をはじめた。
そして、琴滋は
三人の様子をしばらく眺めて部屋を出ていった。




