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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
はじまりの守紋: The beginning【第四章 第一部】

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知己を得れば足る

 宇宇国(ううこく)(りん)国王の戴冠式(たいかんしき)の翌日、

 志々度(ししど)中隊長は王の間に呼び出されていた。

「なぜ、呼んだか分かるか」

「はい」

 倫国王は、王座には座らず、

 部屋の真ん中に立つ志々度中隊長の前に立って話していた。


「説明してもらおう」

 倫国王が静かな声で言った。

「私は、五家(ごけ)火宮家(ひのみやけ)六古衆(ろっこしゅう)の一人です。代々、六古衆のうち一人が、宇宇国の国王または王位継承者をお護りする役割を(にな)っております。このことは、国王と五家の当主(とうしゅ)のみが知る秘事(ひじ)とされております。倫国王が即位したときに、告げられるはずでした」

 志々度中隊長は、いかなる処分も受け入れる覚悟を持った顔で話を続けた。

「先の(みん)王子の反乱の際は、私の勝手な一存で倫国王の元へ行きました。六古衆の秘技(ひぎ)を使わねば間に合わないと思い、あのような形で知られてしまったことは私の至らなさです」


「本当の名はなんと言う」

 志々度中隊長は、予想外の言葉が返ってきて

 軽い驚きと共に、一瞬伏せた顔をまた上げた。

「タン……と申します」

 倫国王が、ふぅとため息のように息をした。

「11年……11年だ」

 志々度中隊長は、言葉を返せなかった。

「誰よりも一番長く志々度と時間を共にしたぞ。勉学も修練も職務も全てだ。それなのに気づけなかったとは、愚かな……」

 倫国王は自分自身に失望していた。


「まて、先ほど国王または王位継承者と言ったな。入隊した時から私の直属の部下だった。同じ年だからだとばかり思っていたが、まさか11年前から私を王位継承者としていたということか?」

 志々度中隊長は倫国王の顔を真っすぐに見て答えた。

「それは私には分かりかねますが、11年前、倫国王の部下にと命じたのは、前国王から直接でした」

「そうか――」

 隠されていたことはショックだったが、

 気づけなかった自分自身にも落胆もしていた。

 また、それと同時に

 国王という秘密を抱えなくてはいけない立場の重みも自覚した。


「六古衆とはなんだ?」

 倫国王は、六古衆という言葉も初めてだった。

「隣国の臙国(えんこく)では古より六古衆と呼ばれる剣術、柔術、薬術、芸術、戦術、忍術に長けた六人衆(ろくにんしゅう)がおります。五家の中でもその分野での第一人者といわれ、有事(ゆうじ)の際に動くよう訓練されております」

 倫国王は深く深呼吸をして口を開いた。

「これからどうする?」

 志々度中隊長は片膝をついて、頭を下げた。

「まだ信頼いただけるなら……」

 志々度中隊長は、倫国王の信頼をすでに失っているのかもしれないと思うと、

 言葉に詰まった。

 倫国王は、志々度中隊長の責任感の強さと誠実さを

 誰よりも理解していた。


「明日、五家の当主との会談がある。総隊長として同席するように」

 志々度中隊長は、すぐさま顔を上げて倫国王を見た。

「志々度総隊長以上に信頼しているものはおらぬ」

 以前と変わらない、いや以前よりも国王という力が増した目を見て

 志々度総隊長は、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

「ありがとうございます」

 その一言で十分過ぎる答えだった。


 倫国王は、志々度総隊長の肩を持ち、

 立ち上がるよう促した。

「ところで、志々度総隊長は、剣術、柔術、薬術、芸術、戦術、忍術のどれなのだ?」

「忍術です」

「あぁ、それでか」

「どういったことでしょうか?」

「五家の譲家(じょうけ)当主から、今朝、連絡があった。奈国(なこく)の名前のない店で、夏休みの間、(ゆう)(たまき)が修練をするそうだ。志々度総隊長に武術指導をお願いしたいと相談があったのだ」

「私に……ですか?」

「あの二人は、守紋(しゅもん)以外にも自分自身で身を守る(すべ)を身につけておいた方がよいだろう。来週から夏休みの間、毎日2時間ほど行ってくれ」

「承知いたしました」


「それから、総隊長任命の王令(おうれい)は今朝出した。沙々山(ささやま)総隊長から引き継ぎ、任務に当たるように。沙々山総隊長は、前国王について隠居邸(いんきょてい)で警護にあたる」

 志々度総隊長は

「承知いたしました」と答えながら考えていた。

 ――はじめから信じてくれていたんだ。

 そして、倫国王の(ふところ)の広さと強さに少しでも近づきたいと思った。

「行ってよいぞ」

 倫国王は、振り返り王座へと歩いて行った。

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