開かれる能力
しばらくして、琴滋が扉の前に戻ってきた。
(思ったより時間がかかるかもしれないな……)
先ほどの様子を思い出しながら、
扉を開けた琴滋は、その場に立ちすくんだ。
(たった半刻で……)
悠と環は、それぞれに守紋を自由に大きく豊かに動かしていた。
(ふっ……)
笑みがこぼれた琴滋は、
悠と環に気づかれないよう二人の背中を見ながら
ポケットから守紋符を一枚出した。
「悠!」
環が蝶の守紋で悠を庇った。
何かが突然、悠を襲ってきた。
悠と環が、“竹虎”と“牡丹蝶”の守紋を防御するように戻し
辺りの様子を伺った。
「修練だと思って油断した!」
「一体、誰が、どこから?」
環が目を凝らして見た。
「波千鳥だ」
二人の周りを飛び回る千鳥の群れがだんだんと距離を詰めてきた。
その後ろからは巨大な波が今にも迫ってきそうだった。
「敵!?」
「分からない。攻撃されている気がする」
悠が、無数の竹をしなやかに大きな塀のように
二人の前にそびえたたせた。
環は、千鳥の一羽一羽を覆うように桜の花びらの大群を出した。
悠は虎の背に乗り、
環は蝶の背に乗り、
上へと飛び上がった。
大きな竹が軋む音がして、巨大な波は飛び散った。
千鳥の群れも桜の花びらに吸収されるかのように消えていった。
悠と環は地上へと降りた。
「波千鳥……亮さんが持っていた守紋符と似ている。まさか亮さんが?」
悠と環が見回した。
後ろを見ると琴滋が守紋符を手に立っていた。
「琴滋さん」
悠が声をかけた。
「亮当主も波千鳥の守紋符を持っていたんだね。守紋は各種一つとは限らないよ。この世界に数多くの動植物が無数にあるように、同じ守紋の組み合わせも、違う守紋の組み合わせもたくさんある」
琴滋が二人の傍に歩いて行きながら説明した。
(なるほど。瞬発力、観察力、機動力が特に優れている)
「さて、他の守紋符はどうかな」
琴滋がそういうと、
悠と環は“竹虎”と“牡丹蝶”の守紋符をしまい、
“雪輪兎”と“鱗桜蝶”をそれぞれに出した。
悠が“雪輪兎”の守紋符を手のひらに置いた。
すると、それはくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符から雪輪と兎の姿が現れた。
「あら、伝える意志が出てきたのね」
雪輪兎が悠に向かって話した。
「もう、今までは何も伝えてこないから、こちらが動くしかなかったんだから」
「そうだったんだ……」
悠が申し訳なさそうに言った。
「守紋は人を守護しようという想いが強いからね。ピンチの時は守紋符が熱くなってサインを送って助けてくれようとすることもある」
琴滋が雪輪兎を見ながら説明した。
「あったよ!」
悠が一年前の出来事を思い出して、環の顔を見た。
環も悠の顔を見て、あの時のことだと気づいた。
琴滋は説明を続けた。
「しかし、守紋頼りではなく、人が発するイメージ力が高いほど、守紋の能力も高く発揮される」
「一つ質問してもいいですか?」
環が琴滋に尋ねた。
「もちろん」
「“鱗桜蝶”の守紋なんですが、桜と蝶は出るんですが、3つ目の鱗は出たことないんです」
環が不思議そうな顔で尋ねた。
「あぁ、おそらく“桜蝶”の守紋に“鱗”が加わってバージョンアップしたんじゃないか?」
琴滋が確認するかのように聞いた。
「はい。青龍が鱗を送ってくれました」
「バージョンアップした守紋は能力も高くなるが、さらに強いイメージ力がないと出にくいんだ。少しだけいいかい?」
琴滋が環から“鱗桜蝶”の守紋符を手に取った。
すると、それはくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符から桜と蝶と鱗の姿が現れた。
太陽の光があたりキラキラと輝く鱗が、スッと
少し遠くにある木のところへ飛んで行った。
木から柿の元をスパッと切った。
落ちる瞬間に桜の花びらたちで支えてゆっくりと柿を
環の前に運んだ。
「休憩の時にでも食べるといい」
そして、琴滋は環へ“鱗桜蝶”の守紋符を返した。
「さぁ、二人とも続けてみて」
「はい」
悠と環は、守紋符を手のひらに置いた。




