守紋の結び
「大昔から、人と動物、自然は共に生きていた。そして、動物と自然は幸運を運ぶ人の守護として存在していたそうだ。それらは守紋という形で、私たち一部の人たちは扱うことができる」
琴滋が、環の“鱗桜蝶”の守紋符を手のひらに置いた。
すると、それはくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符から桜と蝶の姿が現れた。
と思ったら、桜の花びらの大群がぶわっと大量に現れ、
悠の足元を覆い、空中へふわりと持ち上げた。
同時に、蝶の大群がぶわーと現れ、
環の足元を覆い、空中へふわりと持ち上げた。
そして、二人の位置を入れ替え、
ふわりと地上に降ろした。
そして、それぞれの一つの桜と蝶に戻り、
琴滋の横にフワフワと浮いてた。
一瞬の出来事に二人は言葉を失っていた。
「守紋との結びつきは、イメージ力だ」
「イメージ力?」
悠が声を出した。
「あぁ、そうなってほしい状況をありありとリアルにイメージするんだ。五感全てでイメージできるとより、守紋との結びつきが強くなる」
琴滋が言い終わると、
今度は、桜と蝶が、悠と環の足元に素早く移動し、
ぐんぐんと体を超える大きさになり、
悠は桜の上に、環は蝶の背中に乗り、
フワフワと浮いていた。
二人は落ちないようにしっかりと掴まった。
「すごい!」
悠が嬉しそうに叫んだ。
二人をゆっくりと地面に降ろすと
それぞれの元の大きさの桜と蝶に戻り、
琴滋の横にフワフワと浮いてた。
「守紋との結びつきのことを“守紋の結び”と言われている。守紋の結びは、手のひらで守紋符から守紋に変えた人とその時に生まれるものだ。守紋符を普段から持っている人の専用の守紋ではないという訳だ。だから、今みたいに、環が持っていた“鱗桜蝶”を私が扱うことができたのだ」
琴滋が二人に説明した。
「そうか。だから僕たちが持っていた四瑞の守紋符も倫さんに渡しても大丈夫だったんだね」
悠が明るい表情で答えた。
琴滋は手のひらを出した。
桜と蝶は、くるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符に変わり、琴滋の手のひらに収まった。
そして、環に守紋符を返した。
「あぁ、そういうことだ。さて、今日はこの守紋の結びの力を高めてもらおう。悠は、“竹虎”、環は“牡丹蝶”で試してごらん」
「はい」
二人は返事をすると
“竹虎”と“牡丹蝶”以外の守紋符をしまった。
悠が“竹虎”の守紋符を手のひらの上に置くと
それはくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符から竹と虎の姿が現れた。
悠は、目をつぶった。
「……んん」
――ポンッ
竹の葉が一枚増えただけだった。
「あははは」
環の笑い声に目を開けた悠は、
がっかりした顔をしてつぶやいた。
「環もやってみろよ……」
環が“牡丹蝶”を手のひらの上に置くと
それはくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符から牡丹と蝶の姿が現れた。
環は大きく深呼吸をした。
「ふぅぅぅ……」
――ポンッ
牡丹の花びらが一枚だけ大きくなっただけだった。
「全然違うなぁ」
納得いかない顔でつぶやいた。
「まだ、はじめたばかりだ。私は少し外すから、しばらくここで修練していてくれ」
琴滋は、そういうと部屋の扉を開けて出ていった。
「よし!」
二人は背を向けて、それぞれに修練をはじめた。
 




